Integrated Report 2022
Hakuhodo DY Holdings
Integrated Report 2022

地域の社会課題解決を目指す
共助・共創モデル開発 — ノッカル

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    博報堂 MaaSプロジェクトメンバー

    (左から)畠山、堀内

    日本の地方においては、公共交通機関の衰退や高齢に伴う運転免許返納者の増加が進む中、「移動すること」における生活者課題が顕在化しています。博報堂はこの課題解決を目指し、様々なステークホルダーと連携しながら新しい公共交通サービスを開発し、地域の皆様とともに社会に根付かせていく「生活者発想型MaaS*」構想の実装プロジェクトを推進しています。

    * MaaS:Mobility as a Service
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    畠山 「ノッカルあさひまち」(ノッカル)は、博報堂が富山県朝日町、パートナー企業様(スズキ(株))と連携して2020年8月から実証実験を開始したMaaSプロジェクトで、2021年10月以降は、朝日町の正式な公共交通として運行されています。自家用車を活用し、買い物などの移動をサポートすることで、移動する機会を増やし、地域を活性化することが狙いです。
    ノッカルは、自家用車を持っている地域の方に、どこかに出かけるついでに、同じ地域の方の送迎を行っていただくサービスです。ドライバーの方が車を出せる時間を事前に登録し、同乗を希望する方が移動したい時間を選択します。専用の停留所が設置されており、ドライバーの方には予約時間に停留所まで利用者をピックアップしていただきます。
    プロジェクト発足のきっかけは、私の個人的な経験にありました。「田舎に1人で住む母親が、免許返納後にどうやって移動するのだろうか」という、一人の生活者としての「問い」が社会の課題でもあるという気づきとなり、この生活者課題の解決に取り組む決断に至ったのです。
    朝日町は高齢化率が44%で、高齢に伴う運転免許返納者の増加などにより、住民の公共交通サービスへの需要が高まっています。鉄道の駅やコミュニティバス、タクシーと一通り公共交通機関がそろっていますが、持続性には様々な課題があります。そこにノッカルが加わることで、地域全体で移動課題の持続的な解決を目指しています。
    元々、朝日町ではどこかに出かけるついでに地域の方を送迎するといったことを行っている方もいたそうです。ただ、慣習的にお礼を返すということがあったりして、乗せてもらうことをためらう方もいました。ノッカルという形でサービス化されたことで、「お金を払う方が気軽に利用できる」といった声が上がりました。またノッケル側(運転する側)からも、地域に貢献したいという想いがあったものの、今一つピンとくるものがなかった中で、この仕組みならノリやすいということで参加していただいた方もいます。
    「ノッカル」の名前も評判が良く、住民の方々には「ノッカルさん」の愛称で親しまれています。90歳代の方が、ノッカルの利用を契機に数年ぶりに出かけた、というお話も伺いました。介護担当の方が、「ノッカルなら出かけやすいよ」と勧めてくれたそうです。
    博報堂が主体となって開発・社会実装に成功したマイカー乗合交通サービス『ノッカル』の取り組みを通じて、博報堂の生活者発想が社会課題を解決する1つのモデルケースが生まれました。広告会社として培ったクリエイティビティを駆使した生活者発想型MaaSによって、産業を運び、社会を豊かにする。このように、持続可能なビジネスを設計するノウハウを活かしたノッカルのサービス拡張の取り組みは、国土交通省の2022年度『地域交通共創モデル実証プロジェクト』にも採択され、全国多くの自治体で共通の課題となっている地域交通再編のサービスモデル開発を手掛けています。
    また、移動課題だけでなく地域全体の社会課題解決を目指した朝日町での取り組みは、政府による『デジタル田園都市国家構想』の実現に向けて、推進交付金Type3の採択を受けた6つのモデルプロジェクトのうちの1つになりました。博報堂では「生活者主導社会を導く社会課題解決プロジェクト」を立ち上げ、交通/教育/経済活性/健康など多岐にわたるテーマにおけるサービス/ソリューション/システムの開発・共創にも着手しています。

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    堀内 ノッカルは社会のOSをつくるような事業です。ノッカルの仕組みで公共交通を整えることはそれ自体価値のある取り組みですが、地元の方からすればそういったことは「行政がやってくれて当たり前」のことでもあります。どうやったら移動だけでなく町全体の課題解決につながるかを発想し、ノッカルで住民が活発に移動するようになった結果、町内のコミュニケーションが活性化され、幸せを感じていただけるようになることがゴールです。
    ノッカルのサービス設計のポイントは、町の生活者や事業者になじみやすいプラニングを徹底したことです。大前提として、赤字が当然のようになってしまっている地域交通ですから、外野である博報堂が余計なコストのかかるソリューションを持ち込まないよう、地域の既存アセットをフル活用する設計を志しています。最大の特徴は、日本の地方部ならどこでも当てはまる「車社会」をアセットとして捉えたクリエイティビティ。地域に住んでおられる一般の「マイカードライバーとその車両」を主役とし、ご近所さんをついで送迎する「マイカー公共交通」として社会実装しています。
    ノッカルは、国土交通省が定めた新制度「事業者協力型自家用有償旅客運送」の日本第1号モデルです。朝日町役場がサービス提供主体となった「自治体が運行する公共交通」として設計しています。また、朝日町内の交通事業者「(有)黒東自動車商会」がドライバー管理や予約オペレーション主体となることで、地域のドライバーだけでなく、自治体や地域の事業者と共創する「地域の、地域による、地域のための公共交通」という特徴を持っています。

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    自治体がサービス提供し、地域の事業者が管理し、地域のドライバーが運行する「共創型の公共交通」ですから、当然、地域の生活者の皆さんにとってもなじみやすい交通手段になっています。ノッカルは、地域の方々が自分たちの公共交通を改めて考えるきっかけにもなっており、地域のタクシーやバスとともに、地域全体での移動課題解決を目指しています。また、移動の先にある町全体の活性化も叶えたいですね。
    ノッカルのシステムは、博報堂グループ内で自社開発しているものですが、メインの利用者となる高齢者でも使いやすい仕組みを構築しています。よくある机上論は全く通用しなかったというのが本音で、高齢者が集まる朝日町内の各自治会の寄り合いや、地元の病院、スーパー、さらには、予約管理を行う(有)黒東自動車商会などに何度も足を運ぶなど、地元の方々に常に意見を聞きながら改修を繰り返す地道な活動に取り組みました。当初は、デジタルでの予約や決済システムをメインで考えていましたが、スマホを持たない高齢者が多い朝日町においては、ユーザーが使うものは既存の仕組みを活用したアナログをメインにしています。例えば、バスのダイヤや停留所は既存バスと共有する形に。電話での予約も用意し黒東タクシーのオペレーターさんが対応。料金支払いは使い慣れた紙のバス券をそのまま流用し、ユーザーは既存の公共交通と同様に使える仕様にしています。一方で、既存交通とは大きく異なる、一般ドライバーが運行するマイカー公共交通ですから、ドライバーさん向けには「ドライバーアプリ」を開発し、安心安全な運行を担保。デジタルに慣れたユーザーにはLINE予約システムも提供しています。また、役場の方やオペレーターさんが使う「予約・運行管理システム」などバックエンドは完全にデジタル化し、運行データなどを活用したPDCAが可能な設計を実現。まさに、アナログ×デジタルの公共交通DXだと考えています。