企業の本質は価値の創造です。企業の根幹の機能はマーケティングとイノベーション、と言われています。私たちの生業は、クライアントのマーケティングとイノベーションのお手伝いをすることです。マーケティングの本質は顧客の創造です。イノベーションの本質は市場の創造です。
マーケティングとイノベーションはお互いにお互いを補い合う関係にあります。市場の創造は、顧客の創造なしにはありえません。一方、顧客の創造は、市場の創造によって、限界を超えていかなければなりません。
私たちには、生活者発想というポリシーがあります。これは、顧客を生活者として捉えるということです。それに対して、顧客を消費者として捉える、という考え方もあります。むしろ、こちらの方が一般的かもしれませんが、それは採りません。私たちは、人々を、単に消費の対象としての消費者というよりも、自らの生活を主体的にデザインしている生活者と捉えます。その生活者を一番良く知っている。そこから発想して最高のクリエイティビティを発揮する—これを「生活者発想」と名付け、大切なポリシーとしています。
もう1つ、大切にしているポリシーは「パートナー主義」です。これは「生活者視点に立つから、クライアントと課題を共有し、一貫した課題解決を提供することができる。結果として、長期的な関係(パートナー関係)を構築することができる」というものです。私たちは、顧客を生活者として捉え、生活者の幸せをパートナーとともに実現していくことをゴール(目的)として考えています。
生活者は、安心安全な社会を望んでいます。生活者は、自己実現できる社会を望んでいます。生活者は、持続可能な社会を望んでいます。企業の本質は価値の創造である、と申し上げました。私たち博報堂DYグループの場合、価値の創造は「生活者一人ひとりが、自分らしく、いきいきと生きていける社会の実現」を目指すということになります。それを、最高のクリエイティビティで、パートナーとともに実現する、ということです。それでは、創造した価値を提供する相手(ステークホルダー)は誰でしょうか。先ほども申し上げたように、生活者(その集合が社会です)、そしてクライアントは、最も重要な価値を提供する相手です。それだけではありません。メディアやコンテンツホルダー、プロダクションなどの協力機関も大事なステークホルダーです。また、従業員も極めて大切なステークホルダーです。私たちには「人が資産」というポリシーがあります。これは、私たちの仕事が、頭脳労働中心のサービス業だからです。アイデアの生産手段は、従業員の頭の中にあります。私たちは、「従業員満足」を大切にし、個の尊重、「人のクリエイティビティ」の開発、「チーム力」の向上に、特別に力を入れています。
そして、それを「顧客満足」につなげていきます。
さらに、株主や投資家の皆様は、最重要のステークホルダーです。私たちは、その投資を活かし、不断の企業価値向上を目指します。株主、投資家の信頼に応えるべく努力を重ねていきます。
会長メッセージ
- 取締役会長
- 戸田 裕一
客観的で多様な価値観に基づく経営判断を通じて
「約束の連鎖」を拡げ、企業価値の向上につなげていきます。
博報堂DYグループのゴール(目的)
博報堂DYグループの構造(ストラクチャー)
博報堂DYグループは持株会社体制をとっています。持株会社は、一言でいうと、会社をデザイン(計画)する会社、グループをデザインする会社です。なぜ、それが必要かというと、価値創造を最大化するために必要だと、考えているからです。では、どうやって会社(グループ)をデザインするか。
1つは、明日の成長のためのグループ戦略を立て、それを推進します。その成長戦略を達成するために、投資することになります。事業会社は、どちらかというと、今日の競争に勝つために戦略を立て、クライアントやメディアに密着して、競争戦略を推進します。
2つめの役割は、事業会社が価値創造を最大化できるように、支援することです。
何によって支援するかというと、計画の共有であったり、ファイナンス(経理財務)の支援であったり、情報(システム)の統合であったり、間接(バックオフィス)業務の共有化であったりします。
3つめは、以上によって企業価値を高める方向づけをし、それを株主の皆様をはじめステークホルダーに説明し、評価を得ることです。博報堂DYホールディングスは、公開会社として、グループの価値創造をデザインし、それを資本市場はじめステークホルダーに約束し、推進する仕事をしています。
博報堂DYグループの企業統治(コーポレートガバナンス)
博報堂DYグループは「自立と連携」という運営モデルに基づいて運営されています。
「自立」は、①それぞれの事業会社が「らしさ」=「強み」を確立して成長する②その結果、持株会社との約束である計画を全うする、ということです。これを踏まえ、持株会社は資本市場はじめステークホルダーに、グループ全体の計画を約束します。約束という言葉には、ゴール(目的)という定性的なものと、計画(数値)という定量的なものの両方の意味を込めています。そして、博報堂DYグループは、この「約束の連鎖」で運営されている、ということになります。「連携」は事業会社が「強み」と「強み」を持ち寄ることで、高度な「連携」を実現し、生活者やクライアント、メディアに新しい価値を提供する、ということです。
これによって、部分の総和より大きな全体を創出できることになり、成長が加速されます。
ステークホルダー—持株会社—事業会社の「約束の連鎖」を確実に達成するために、企業統治(コーポレートガバナンス)が重要な役割を果たします。博報堂DYグループの企業統治の中心に、博報堂DYホールディングスの取締役会があります。取締役会では、グループの成長戦略を議論し、中期経営計画をつくります。また単年度の予算を議論し、年度計画をつくります。この中期経営計画と年度計画は、資本市場はじめステークホルダーに「約束」として発表します。事業会社もまたそれぞれの中期経営計画、年度計画をつくり、ホールディングスと「約束」します。私たちは、取締役会において、長期視点で「持続可能な成長は可能か」を議論しなければなりません。一方、中期的、短期的視点で計画を作成します。長期の目的や目標にどんなに価値があっても、中期、短期の成功なくして、それを達成することはできないと考えるからです。
取締役会の構成
博報堂DYホールディングスの取締役の員数は、現在10名です。このうち独立社外取締役は4名で、4割を占めています。社内取締役は中核事業会社の取締役を兼ねています。これは、株主をはじめとするステークホルダーに対して、持株会社—事業会社の「約束の連鎖」を確実に機能させるための構成です。戦略は実行されなければ意味がない、と考えるからです。また、独立社外取締役には、次のようなことを期待しています。「事の外に立ちて、事の内に屈せず」という言葉がありますが、自らを「外の目」で見ることは、会社を正しく成長させるために欠かせないことです。社外取締役には、「外の目」(ステークホルダーの目)で、客観的に業務執行を監督していただいています。また、社内だけでは必ずしも十分でない専門性を発揮して、ご意見、ご助言をいただいています。
社外取締役は、それぞれ法曹界、企業経営、投資銀行、官公庁での豊富な経験を持たれています。取締役会では、「鳥の目」と「虫の目」を行き来しながら、闊達に議論が交わされている、と認識しています。
取締役会(2022年6月末現在)
取締役の指名と報酬
取締役会には、任意の諮問機関として、指名委員会と報酬委員会が設けられています。両委員会とも社外取締役4名、代表取締役を含む取締役3名によって構成されています。どちらも、委員長は社外取締役が務めています。指名委員会の役割は、「取締役、執行役員の人事案の作成」および「指名に関する重要な規定の制定」です。この委員会で審議された案が、取締役会に上程され、決議されることになります。
指名の中で最も重要なものは、社長の指名です。指名委員会では、社長の後継者計画を作成しています。
後継者計画では、まず「リーダーシップ要件」を定めました。リーダーシップを「持続的成長と企業価値向上のために、組織の能力を最大化する力」とし、その評価指標を「勇・知・仁、企業風土への貢献」としました。勇は実効力、知は洞察力、仁は人望力です。企業風土への貢献は、「生活者発想」「パートナー主義」「人が資産」という理念・文化・行動を前向きに発展させていく力です。次に後継者候補となりうる役員には、複数領域での経験を積むことができるように、担務の変更、拡大を行います。これを踏まえて、社長は、「リーダーシップ要件」の評価に基づき、複数の候補者を選定します。その際、社外人材からの選定の可能性も排除しません。社長は、指名委員会の委員(社外取締役)に個々の候補者を選定した理由を、これまでの実績、評価も含め説明します。また、委員(社外取締役)の「外の目」(ステークホルダーの目)を活かせるよう、審議に先駆け、候補者と個別に接する機会を設けます。この接点に、役員研修の場などを活用します。最終段階では、社長は、当社グループを取り巻く経営環境を踏まえ、「リーダーシップ要件」に照らして、次期社長について評価を行い、後継者を1名に絞ります。これについて、指名委員会で審議し、最終案とします。社長は、この最終案を取締役会に提案し決議する、ということになります。報酬委員会の役割は、「取締役、執行役員の報酬制度、報酬額(案)の作成」および「報酬に関する重要な規定の制定」です。この委員会で審議された案が、取締役会に上程され、決議されることになります。役員報酬の基本方針は、株主の皆様をはじめステークホルダーとの価値意識を共有し、中長期的な企業価値向上を動機づける、ことです。また、当社の取締役、執行役員の役割と責務にふさわしい、優秀な人材を確保、維持できる水準であることにも留意しています。報酬項目は「年額報酬」「年次賞与」(短期インセンティブ)
「株式型報酬」(中長期インセンティブ)で構成されています。業績に応じて金額や価値が変動する「年次賞与」と「株式型報酬」の占める割合を、標準的な業績の場合、4割となるように設定しています。
役員報酬は、ステークホルダー—持株会社—事業会社の「約束の連鎖」を、リーダーとして責任を持って遂行する上で、極めて重要な要である、と認識しています。
指名委員会・報酬委員会(2022年10月末現在)
今後のガバナンスのあり方について
新型コロナウイルス感染症がもたらした影響により、私たちを取り巻く環境は、大きく変化しています。危機の中では変化は加速します。普段なら5年10年かかる変化が、数年で進んでしまいます。生活者が変わり、企業が変わり、社会が変わります。そこでは「変化に柔軟に対応する力」が問われることになるでしょう。
私たちは、ステークホルダーに対して、なぜ、何を、いかに価値創造するか、仮説を立て、実行し、成果を上げていかなければなりません。ゴール(目的)は、いわば北極星であり不変です。社会の土台が変化する中で、その実現に向けた道筋をどのように立てて実行していくか—そのケイパビリティをいっそう強化していかなければと考えています。
変化が加速する時代には、企業価値を「高める」ことと、ちょうど釣り合う力で「守る」ことも重要です。
そのためには、コーポレートガバナンスの中核にある取締役会の機能を一段と高めていく必要がある、と考えています。周辺視野を広げ、時間軸を読み、持続可能な成長のストーリーを展開していかなければなりません。
2022年6月に当社は取締役会の構成を一部変更しました。初の女性取締役として有松育子さんを迎え、社外取締役は1名増の4名となりました。持株会社において「外の目」の割合を増やすだけでなく、ダイバーシティを推進することになります。より客観的で多様な価値観に基づいた判断を行うことが「約束の連鎖」につながり、ひいては企業価値の向上につながると考えてのことです。
先にお話ししました私たちが目指す「生活者一人ひとりが、自分らしく、いきいきと生きていける社会の実現」のためには最高のクリエイティビティを発揮する必要があります。最高のクリエイティビティは均質な環境からは生まれず、多様な価値観がぶつかり合い、共感し合う中で有機的に醸成されるものだと考えています。つまり、私たちにとってダイバーシティは単に社会の要請というだけではなく、クリエイティビティ・価値創造の源泉というべきものであり、自らの使命を果たすためにあらゆる階層において推し進めていく必要があるものです。
今後も、取締役会も含む様々な面で多様な価値観を取り入れ、すべてのステークホルダーにとって価値のある存在であり続けるべく努力していきます。