博報堂DYメディアパートナーズ メディア・コンテンツクリエイティブセンター クリエイティブ1部(通称concreat)の嶋田三四郎と申します。
私は普段、メディア・コンテンツの特性を活かしたクリエイティビティを軸に、商品・ブランドコンセプト開発、広告キャンペーン開発、CM・グラフィック開発、テレビ・ラジオ等番組プロデュース、メディアPR、WEB・イベントプロデュース等、生活者との全ての接点をメディアと捉えた広告コミュニケーションの企画・プロデュースを手掛けています。
今回は「明日から使えるカンヌライオンズ2016がくれたヒント」と題しまして、「カンヌライオンズ2016」を、「受賞作」「セミナー」という視点からヒントを抽出し、キーワードとともにご紹介していきたいと思っております。
世間の反応とは違うのでは?などのご意見もあるかと思いますが、あくまで、"メディア・コンテンツ視点"で広告コミュニケーションを考える私のフィルターを通して見えた「カンヌライオンズ2016」でありますので、「信じるか、信じないかは...あなた次第です!」ということでご了承いただけると幸いです。
★「受賞作」という視点 ★
それでは早速、最初に「受賞作」からのヒントを探ってみたいと思います。
キーワードは、「Idea with ...」です。
今回は多くの場所で、「アイデアが評価された原点回帰の年だねー」なんて言われてますが。本当に多くの受賞作の真ん中には「アイデア」があった気がします。でも、それは、ただのアイデアではなく、「with...」といったように、必ず何かが込められていた気がしますので、それを3つのパターンで解説します。
▶パターン① 『Idea with "Strong Will"』
Burger Kingの「Mac Whopper」とReiの「♯Opt Outside」がその代表だなと。企業側の強い意志を、上手にアイデア化し、
「キャンペーン=意思表明」という形で世の中に発信していく「骨太さ」がとにかく印象的で、小手先はダメ!というお説教を食らった感じ...
▶パターン②『Idea with "Big Humor"』
Macmaの「Manboos」、Netflixの「FU2016」、Heinekenの「The Dilemma」、Volvoの「Look Who's Driving」、Contours Strollersの「The Baby Stroller Test Ride」、Panteneの「♯DadDo」とかとか、もう言いだしたら切りがないくらい。「こっち系、自分大好きっす!」に加えて、「子どもネタ絡められちゃうと、もう200%好き!」(やっぱ子どもネタの鉄板感は世界共通ですね!)
ソーシャルグッド系だったり、イノベーション・テック系がメインだったりした去年に比べて、このユーモア系が主戦場になったカンヌは自分としては嬉しいし、この流れが続くことを心から願ってます!
▶パターン③『Idea with Digital Technology』
デジタルテクノロジーといっても、今年はやっぱり「VR」にもアイデアが加わっていたのが印象的でした。自分的に大好きで、アイデアマンとして超嫉妬しちゃうVR三部作が...Lockheed Martinの「Field Trip To The Mars」とJaguarの「Actual Reality」のNew York Timesの「The Displaced」。この3つには、本当に大きな意味があると感じています。ヘッドマウントディスプレイを使わないで、みんなで体験するVRだったり、あえて裏をかいてリアルと共存するVRだったり、ジャーナリズムの価値を変える体験させるVRだったり...技術とアイデアが融合すると、こんなにも素晴らしく人がワクワクする企画になるんだなーっと、アイデアの素晴らしさを再確認しました。
一方、「AI」というテクノロジーを使った「The Next Rembrandt」もすごいと思うのですが、そこには技術でできることのお披露目感がどうにも拭えなかったのです。きっと来年は、「AIとアイデア」が融合する「AI元年」と言われるんでしょうね!
というのが「受賞作」を通じたキーワードです。あるセミナーのタイトルにもあった通り「 Innovation is great but idea comes first」こそが、「カンヌライオンズ2016」の根底のヒントだと思います。
そんなカンヌがくれたヒントを、実際の広告コミュニケーション開発に活かしていくためには、アイデアを創り上げていかねばならない訳です。それを実現していくために、自分なりの発想も考えてみました。
それが「Idea with "9exp"」。
「9exp」とは何か?
数字には色々な意味がありますが、「9」は「完成」を意味する数字といわれています。つまり、自分たちのアイデアが完成されたものになっているのか?を「9つのexp」という視点で確認する発想法が「Idea with "9exp"」です。
その9つの「exp」とは...?
①expect(期待する)
世の中の人が、期待するアイデアになっているのか?
②experience(経験・体験)
それは、世の中の人に、意味のある体験価値になっているのか?
③explore(探求する、調査する)
探究心をもってそのアイデアに向き合っているか?
④expend(費やす)
アイデアの開発、実現に向けて、ちゃんと時間を費やしているか?
⑤expert(専門家)
素人発想ではなく、プロとして仕上がっているアイデアか?
⑥explosion(爆発)
そのアイデアには、爆発力があるのか?
⑦express(表現する、言い表す)
そのアイデアの根底の意味をちゃんと表現できているのか?
⑧explain(説明する)
アイデアを実現する様々な関係者に説明できる内容になっているか?
⑨expand(拡張する)
そのアイデアは、ちゃんとビジネスとして拡張性があるのか?
あくまで、私なりの発想法ですが、一度自分のアイデアが、この9つで構成されているか?など参考にしていただけると嬉しい限りです。
★「セミナー」という視点 ★
続いては、世界一流のメディア&エンターテインメント関係者による必見必聴の「セミナー」から導きだせる、これからの広告ビジネスに役立つヒントを探ってみます。
本祭「カンヌライオンズ」でのWill Smith、David Copperfield、Iggy Pop、Usher、Shane Smith(VICE)をはじめ、「Lions Entertainment」でのWWE、Hulu、Spotify、Sony Music、Vivendi 等のセミナー&トークセッションでも、数々のキーワードが飛び交っていましたが、それを結びつけることである種の法則が見えたので、ここで紹介していきたいと思います。
①ADVERTAINMENT
「ブランデッドエンターテインメント」「ブランデッドコンテンツ」と同じ概念ではあるが、総じて言えるのは、エンターテインメントには、人を魅了し、心とつながるチカラがあるからこそ、広告自体がよりエンターテインメントになっていかねばならない。
②STORY-DRIVEN
今さら?と思うほどストーリーという言葉をよく耳にしたが、この意味を再確認した。ブランドとオーディエンスとタレントをつなぐ真ん中にはストーリーが必要で、どれだけプラットフォームが変わろうとも、よいストーリーは永遠に続くという考えに
立脚したストーリー構築がとても重要。
③CATEGORY → CULTURE
VICE、Beats by Dr Dre、TOMSなどストリートに根付いたブランドの成功の共通項が「カルチャー」。オーディエンスを、年齢・性別などカテゴリーで区切るのではなく、同じ思想・嗜好性を持った人で括る"カルチャーオリエンテッド"なターゲティングが今後のマーケティングの基本。
④THE POWER OF NARRATIVE
ブランドが伝えたいことを、そのオーディエンスの興味のあることに翻訳して伝えていくという意味合いの「NARRATIVE」という言葉が、今年のカンヌの重要キーワードの一つと言っても過言ではない。
⑤KNOW YOUR AUDIENCE
これは個人的に一番刺さった、WWEのスーパースター、John Cenaが何度も言っていた言葉。Will Smithも同じ視点の話をしていたが、オーディエンスの生の声に耳を傾け、向き合い、徹底的に知り尽くすという努力を怠ってはいけない。
一つ一つは聞いたことがあるキーワードですが、5つが重なった広告ストーリーになることで、人を動かすチカラになるのだと、今一度セミナーを通じて感じました。
ということで、今回、「受賞作」「セミナー」という視点で、「明日から使えるCannes Lions2016がくれたヒント」をご紹介させていただきましたが、やはり「Cannes Lions」は、「新しいこと」を生み出すためのヒントがたくさん眠っている場所でした!
そのヒントのフルコンボで、
新しい広告コミュニケーションを開発したり、
新しいメディア事業を開発したり、
新しい事業モデルを開発したりと...
「未来を発明していくこと」が我々の使命ですが、
その根幹にあるべきこと...
それは、Media Person Of The Yearを受賞したViceのShane Smithの言葉...
" Trust your intern if you want to build something new and unique "
だと思います。
このメッセージを胸に刻むことが、カンヌがくれた最大のヒントなのかもしれませんね...
(注)動画はカンヌ公式サイトで一定期間閲覧可能。その後有料サイトでのみ閲覧可能です。

嶋田三四郎
博報堂DYメディアパートナーズ メディア・コンテンツクリエイティブセンター
クリエイティブ1部 部長
メディア・コンテンツの特性を活かしたクリエイティビティを軸に、商品・ブランドコンセプト開発、広告キャンペーン開発、CM・グラフィック開発、テレビ・ラジオ等番組プロデュース、メディアPR、WEB・イベントプロデュース等生活者との全ての接点をメディアと捉え、企画をプロデュース・実行するチーム「concreat」を率いる。
※執筆者の部署名は、執筆時のものであり現在の情報と異なる場合があります。