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CFOインタビュー

代表取締役専務執行役員 CFO 西岡 正紀氏の写真

「財務健全性」「成長投資」「株主還元」
の3つの視点から適切な
キャピタル・アロケーションを定め、
中長期的な企業価値向上を実現します

代表取締役専務執行役員
CFO

西岡 正紀

Question

投資についての基本的な考え方を教えてください。
また、現在の中期経営計画に基づき基盤整備のための投資を積極的に行っていますが、
中期経営計画期間の投資計画についてどのようにお考えですか?

当社グループで「投資」というと、デジタルやテクノロジー人財の拡充をはじめとした基盤強化のための「戦略的な費用」の意味合いと、M&A等のバランスシートに直接影響するものがあります。
まず「戦略的な費用」とは、オーガニックでの中長期な成長を目的とするものであり、そのための種、肥料、水というべきものです。
デジタル化が急速に進んでいる中で、データマーケティングを実践していくための人財が必要となりますし、テクノロジー人財を増やし、育成する基盤整備を進めていくことが必要不可欠です。ChatGPTなどのAIやXRなどの新技術への対応も欠かすことができません。
また、こうした事業構造転換期においては働き方を改革し、サステナブルな体制にしていくことも必要です。足元ではコストプッシュとなりますが、現在投下している費用は、将来の成長の基礎となるものです。
今は基盤整備の時期なので、先行して多くの費用を投入しています。そのため、2024年3月期を最終年度とする中期経営計画では、利益の伸びは通常よりも緩やかになります。当社グループのビジネスは、多額の設備投資が必要なわけではなく、クリエイティビティを持った「人」が資産となりますので、営業活動によるキャッシュ・フローで投資と株主還元を賄うのが当社グループにおける財務規律の基本だと考えています。それを踏まえ、現中期経営計画におけるキャピタル・アロケーションついてご説明すると、2022年3月期からの3年間のEBITDAは、2024年3月期に中期経営計画目標を達成すると仮定した場合、概ね2,500億円となります。そして、法人税等の支払いと配当金の支払いが2023年3月期と同水準と仮定した上で、2022年11月から2023年5月にかけて実施した自己株式の取得を考慮すると、3年間で約1,000億円のキャッシュが生まれており、この範囲内で投資を行っています。
投資の対象としては、主に有形、無形固定資産とM&Aが中心となります。
まず、有形固定資産と無形固定資産に対して、過去2年間で計280億円程度を支出しました。テクノロジーへの投資や生産性向上のためのオフィスの見直しは継続しており、2024年3月期も過去2年間と同水準で投資する予定です。
また、M&Aとしては、中型、小型のディールを多く実施したほか、2022年3月期はソウルドアウトへのTOBを行いました。相手がある話であり、現時点で2024年3月期にいくらを使うと明確にすることはできませんが、M&Aや資本提携による機能強化は引き続き積極的に実施したいと考えています。実際には、投資有価証券など保有資産の売却、中期経営計画を見直した時点でのネット・キャッシュ等も加えて考えていくこととなりますので、中長期で見てもテクノロジーやグローバルへの投資が必要になると想定される中で財務の健全性を維持しながら投資を実施していくことは十分に可能だと考えています。

Question

現在策定中の次期中期経営計画における投資の考え方について、
可能な範囲でお話しいただけますか?

2025年3月期以降の次期中期経営計画は現在検討中です。ただ、どのような計画となるにしても成長のスピードを上げるためには、M&Aや資本提携といった手段により外部の機能や能力を取り込んでいくことも必要であると考えています。特に、グローバル領域では、連結売上総利益に占める海外事業領域の比率は25%を上回ったところですので、よりいっそう強化していくためにM&Aが必須であると考えています。国内においても、デジタル領域やマーケティング実践領域をはじめとしたビジネスの拡張に応じた機能の充実のため、M&Aを活用することも選択肢に入れています。また、テクノロジーの強化においても資本提携は有効な手段だと思っています。
ご注意いただきたいのですが、M&Aを単純な規模拡大の道具だとは考えていません。手薄な部分を補完する、品ぞろえを充実させる、相乗効果を求め、効率を向上させるといったことを目的としています。

Question

キャピタル・アロケーションに関するお話がありましたが、
キャッシュ・ポジションについてはどのように考えていますか。

私たちのビジネスのサイクルからすると、売上高1ヵ月分程度の現金は持っておきたいと考えています。平準化すると、ひと月分の売上高は1,000億円強なので、その水準を意識して資金繰りを行っています。
2023年3月末の現金及び預金が1,629億円で有利子負債が1,242億円ですから、差し引き387億円のネット・キャッシュという状態です。
中期経営計画を見直す直前の2021年3月期末のネット・キャッシュが628億円でした。先ほどお話しした通り、戦略的な費用の投下とM&A等の投資を実施しても中期経営計画期間の収支は均衡させるのが基本方針なので、多少計画や収支タイミングにずれが生じることがあっても健全性は維持できると考えています。
先ほど、投資「枠」のあるべき姿についてお話ししましたが、投資にはタイミングがありますので、短期的に営業活動によるキャッシュ・フローを超える投資となることは否定しません。その場合には外部からの資金調達を活用することとなりますが、中長期的には均衡をとる、すなわち、中期的にネット・キャッシュの状態を維持したいと考えています。

過去5年度 期末日時点における現預金、有利子負債、
ネット・キャッシュの残高
過去5年度 期末日時点における現預金、有利子負債、 ネット・キャッシュの残高のグラフ
Question

中期的にネット・キャッシュを維持するという方針のもとで、
資金調達の考え方を教えてください。

2018年にデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)を完全子会社化した際の有利子負債が1,000億円余りありますが、資金調達についてもそうした現預金の水準と投資計画等を考慮して判断していくこととなります。金融市場を取り巻く環境にも変化が生じており、資金調達の多様化も課題であると認識しています。今後、マーケット環境を見ながら最適な調達手段を検討していきます。
なお、2022年9月、格付投資情報センター(R&I)よりA+の格付けを取得し、今年度も同格付けを維持しました。安定的な財務状態と評価していただいていると認識していますが、今後も同水準を維持すべく、財務健全性の維持に努めます。

Question

近年、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上のためには、
「資本コストを意識した経営」が重要という指摘があります。

2023年3月、東京証券取引所から「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」「株主との対話の推進と開示」等について要請がありました。特に、前者の要請に関連して「PBR1倍割れ」という点に注目が集まっていると理解しています。幸い、2023年3月末時点の当社のPBRは1倍超ですが、超えていればよいというものではありません。この水準に満足することなく、投資家と適切な対話をしながら、その期待に応えるべく持続的に投資・資本効率を改善させなければならないと考えています。
投資については当然それに見合う効果や採算を見ていくこととなりますが、基本的な考え方として資本コストを上回る効果を求めています。現在、当社グループの資本コストは8%前後と認識しており、主要な事業会社ではそれを意識したハードルレートを設定しています。今後も継続して資本コストを上回る資本収益性を達成し、持続的な成長を果たしていきます。
資本効率に関連して、資本市場から「政策保有株式が多すぎるのではないか」というご指摘をいただくことがあります。
2023年3月末時点の投資有価証券の残高は1,327億円あります。この中には関連会社の株式も含まれており、すべてが政策保有株式ではありません。しかし、有価証券報告書で「特定投資株式」として開示しているものが合計で911億円あり、これが自己資本の23%にあたることを念頭においてのご指摘だと認識しています。
政策保有株式については、毎年その保有目的と経済効果をレビューして、合理的と言えないものは順次売却しています。政策保有株式を縮小することが時代の要請なのは理解していますので、相手先にご迷惑にならないような形で売却し、資本効率を高めていくつもりです。
実際この5年間で750億円の投資有価証券を売却しました。こうした姿勢にご理解いただきたいと思います。

過去5年度 投資有価証券の売却実績
過去5年度 投資有価証券の売却実績のグラフ

※ 連結キャッシュ・フロー計画書における投資有価証券の売却による収入

Question

株主還元についてはどのようなお考えでしょうか?

株主の皆様には長期的に経済的なメリットを享受していただきたいと思っており、安定配当を基本としています。コロナ禍による一時的な減益が生じた場合も含めてこれまで配当を維持、増加させてきました。2024年3月期の業績予想における純利益は減益を予定していますが、配当金は据え置く計画としています。
また、以前から自己株式の取得を追加的な還元や資本効率向上の手段として位置付けていましたが、業績や資金需要、財務状況、株価動向などを総合的に勘案し、2022年11月に100億円を上限とする自己株式の取得を決定しました。自己株式の取得を公表してから、ステークホルダーの皆様から「株主還元の方針が変わったのか」というご質問を頂戴することが増えましたが、株主還元のベースに配当金があり、補完的な位置付けとして自己株式の取得を検討するという基本的な考え方は変わっていません。
ただ、安定配当が「どのように安定的なのか」という点も含めて、株主還元の考え方がステークホルダーの皆様にご理解いただきづらい可能性があるという問題意識は持っており、キャピタル・アロケーションや資本効率とともに、次の中期経営計画に向けて議論を深めていきます。

配当金および自己株式取得による支出額の推移
配当金および自己株式取得による支出額の推移のグラフ

2024年3月期については、2023年6月30日現在の発行済株式数から自己株式数を除した数値に、2023年5月11日公表の配当金予想(1株あたり32円)を乗じて算出

Question

最後にCFOとして読者に伝えたいことはありますか?

代表取締役専務執行役員 CFO 西岡 正紀氏の写真

2024年3月期は現在の中期経営計画の最終年度であり、次の計画に関して申し上げられることは限られますが、ステークホルダーの皆様からのご期待や当社の成長機会などを様々な角度から分析し、「財務健全性」「成長投資」「株主還元」の3つの視点から適切なキャピタル・アロケーションを定め、中長期的な企業価値向上を実現することがCFOである私の役割だと考えています。引き続きご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。