
2023年秋、女性たちを取り巻く社会課題へと専門領域を拡大してアップデートした「博報堂キャリジョ研プラス」。活動の柱である「ジェンダーギャップ」、「女性の健康課題」、「女性のキャリアデザイン」の3テーマのうち、今回は「女性の健康課題」についてクローズアップしてご紹介します。これまでの活動を振り返りながら、メンバーの実体験も含めて語り合う座談会。女性の健康課題に向き合うために必要なこととは?
女性の"一生"を捉えるため、組織を横断した「博報堂Woman Wellness Program」
小島:今日は「女性の健康課題」について話していきたいと思いますが、博報堂が部署横断で提供している「博報堂Woman Wellness Program」というプロジェクトにもキャリジョ研メンバーが参加していますよね。このプロジェクトはどういった経緯でスタートしたのでしょう?
白根:キャリジョ研プラスになるタイミングで設けた3つのテーマのうち、ひとつが「女性の健康課題」だったわけですが、私たちが調査対象とする20代30代の働く女性では「生理、PMS、妊活、出産」といったものが主な課題。でも、それ以前には性自認の問題があったり、その先には更年期が待っていたり、キャリジョの活動範囲だけではカバーしきれない課題がたくさんあります。もっと女性の一生を捉えたいと考え、「新しい大人文化研究所」「こそだて家族研究所」などさまざまな知見を持つメンバーと一緒にプロジェクトを立ち上げることになりました。

小島:プロジェクトの立ち上げ後、どんな反響がありましたか?
白根:昨年更年期についてのレポートを出した後はかなり反響があって、クライアントからも相談をいただくようになりました。
下萩:更年期の課題に関心のある企業や有識者、フェムテックに取り組むベンチャー企業などをお呼びしたイベントも開催し、企業の垣根を越えて、お互いの悩みや課題について話し合いました。未来を明るくするようなアイディアも生まれたことから、私たちがハブとなって企業をつなぎ、対話を行うことの意義を感じられる場となりました。
白根:いまもフェムケアブランドのパーパス開発や、子ども向けのアプリ開発、テレビ番組の企画などいくつかのプロジェクトが動いていますが、みなさん何に悩んでいるかというと、想いのある社員はいるけれど、なかなか味方を作ることが難しいということ。とくに男性が多い現場では、女性が発言しても「へぇ〜」という感じで終わってしまうという悩みが聞かれます。そもそも知らないのだから、仕方がないですよね。大事なのはまず性別問わず、とにかくみんなで話せる場をつくること。私たちはそのお手伝いをしながら、知識や情報をご提供しつつ、企画を進めています。
PMS調査で明らかになった多様な実態。知識を交換することの大切さを痛感した
小島:テーマによっては当事者でないと理解しにくい部分もありますし、その代弁者として私たちがお役に立てるわけですね。ほかにもキャリジョ研として独自の活動も進めています。「PMS(月経前症候群)実態調査」もそのひとつですよね。
信川:PMSについては、定量調査と定性調査で立体的に課題をあぶりだす試みをしてきました。私は定性を担当したのですが、ひとことでPMSと言っても重度も違えば症状もバラバラ。攻撃的になる人、内向きになって自責してしまう人、食欲が増加あるいは減少する人など、個人差が大きいことがわかりました。PMSならきっとあの人もこうだろう、と憶測しても、現実はまったく違ったりする。対処法も異なるため、PMSという言葉にまとめてしまうことの危うさも感じました。

下萩:PMDD(月経前不快気分障害) というさらに精神の症状が出る方のなかには、そのせいでに行けなくて単位を落としてしまったり、交際相手とも長続きしなかったり。かなり深刻な状況であることを知って、私も衝撃を受けました。
小島:親しい間柄でもなかなかできない話ですし、こういったデータから知るというのもひとつの大切な入り口ですよね。
森川:私は逆に、PMSとポジティブに向き合えるようになりました。普段は考えないような細かいことに神経が向いてしまって、それがすごくイヤだったんですけど、あるときこのタイミングがいちばんクリエイティブになれるなって気づいたんです。そのとき思いついたことをメモ的に書き残しているんですが、潜在的に気になっていることがあらわれていて、それがおもしろい。あとで客観的に見ることで発見があるし、吐き出すことで楽になっている感じがします。こんなこと誰かに話すのははじめてですが。

白根:PMSとうまく付き合うことができているいい例ですね!
北里:私は精神的な変化はないんですがフィジカルがきついタイプ。なるべく軽減したいと思っているとき、同期が低容量ピルを使っているという話を聞いたんです。しかもそのピルは3カ月連続服用できて、つまり3カ月生理がないということ。生理を止めるという概念がなかったのでおどろきましたが、身近な人が使っていることも後押しになって使ってみたら、すごく快適なんです。これまで生理によってどれだけ生活が制限されていたかわかりましたし、生理に悩まない方法を見つけられて本当によかった。
小島:私も学生のときピルに救われた一人なので、選択肢のひとつとして世の中に広がったらいいなと思います。こうしてオープンに話すことで知識の交換ができて、お互いの人生が豊かになりますし、すごくいい時間。対面のコミュニケーションでなくても、いろいろな人の経験談をきくことはすごく大切ですよね。朝日新聞社の女性向けウェブサイト「telling,」に連載している『XXしない女たち』という連載記事も、その一端を担っているのではないでしょうか。
常識を手放して生きる女性にフォーカスした「telling,」が教えてくれること
北里:「telling,」の連載『XXしない女たち』では、これまで常識と思われていたことを手放して生きる女性にフォーカスして、リアルな声を届けています。女性の身体や健康に関するものでは、子宮内リング(正式名:IUS(子宮内黄体ホルモン放出システム、IUSにより生理が来ないようホルモンのコントロールできる)を使って生理を起こさない選択をした「生理の悩みを手放した女たち」や、女性が話すと下品とされてきた性の話をオープンにする「性の話に臆さない女たち」といったテーマを扱ってきました。

小島:取材をしていて、とくに印象的だったエピソードはありますか?
北里:「性の話に臆さない女たち」で、性の話をするためにコミュニティをつくったというエピソードが印象的でした。若い頃はセックスの体験談が中心だったのが、だんだんとセックスレスなどシリアスな悩みを打ち明けるようになり、そこから人生の悩みを話す場になったというんですね。そういう話をすることで人間関係が深くなり、みんなにとって大切な場所になったというのが印象的でした。
小島:性の話は実は自分の健康や幸福度に直結する話。それを安心して話せる場所というのは重要かもしれないですね。キャリジョ研ではチームで共有しているスレッドがありますが、そこでの情報共有も大切だなと思っています。私は最近、都の助成を受けてAMH検査(残された卵子の数の目安が分かる。主に妊活の方針を決めるために用いられる。)をしてきたので、東京都がプレコンセプションケア*の支援をしているよというトピックをお知らせしました。それまでブライダルチェックという言葉は知っていたんですが、それに何が含まれているのか、自分に何が必要なのかはまったくわからなくて。
*プレコンセプションケア・・・将来の妊娠・出産に備えて健康管理を行うこと(conception=妊娠)
下萩:ブライダルチェックという言葉も変わっていったらいいですよね。結婚するしないは関係なく、将来子どもを持つか考えるために自分の身体の状態を知るということ。そういう意味で、今後プレコンセプションケアが広がっていくといいと思います。
「言葉プロジェクト」のゲーム開発が進行中。今後は周囲を巻き込んだプロジェクトづくりを
小島:いま少し言葉選びについても話が出ましたが、現在キャリジョ研では「言葉プロジェクト」というプロジェクトを進めているんですよね。

下萩:そうですね。言葉のジェンダーについて考えてみたいということからスタートしました。いまはさすがに蔑の意味合いが強い言葉が使われることはほとんどなくなりましたが、ほめ言葉のつもりで「男らしいね」と言ったことが相手を傷つけてしまうということはありますよね。そういったコミュニケーションのすれ違いにも注目しながら、「どんな言葉をかけるべきか」考えられるゲームを開発中です。
小島:具体的にはどういうゲームになるのでしょうか?
下萩:声かけがむずかしいシチュエーションをいくつも用意して、それにどう声をかけるか考えてもらうという内容です。たとえば「部下に生理休暇がほしいと言われたとき」「彼女に生理が来ないと伝えられたとき」「子どもにトランスジェンダーだと告げられたとき」などさまざまなシーンを想定しています。

小島:ロールプレイングゲームにすることで、当事者を想像しながら考えることができますよね。明確な正解を求めるというより、相手の立場になって考えるだけで気づけることがたくさんある。このゲームが企業のチームビルティングの一助になったらいいですね。
下萩:いまモックをつくりながら鋭意制作中。仕事編、恋愛編などさまざまなシーンでつくっているので、職場だけでなく家庭や友だち同士で気軽に楽しめるものにしたいと思っています。
小島:言葉プロジェクトは現在進行中ですが、そのほか、キャリジョとして今後どのように女性の健康課題に取り組んでいきたいですか?
白根:今日話をしてみて、私は森川さんの「PMSをうまく活用する」という話に驚きました。マイナスに捉えがちな女性の健康課題ですが、自分の周期や特徴を知って味方につけることで、プラスに付き合うこともできると思います。自分の身体との向き合いについて、今後も女性たちの話を聞いていきたいですね。
小島:テーマを決めてみんなで経験を話したりディスカッションして、最終的にはビジネスのアイディアに繋がるような取り組みができたらいいですね。
下萩:先ほどプレコンセプションケアの話が出ましたが、それも女性だけが知っている言葉ではだめ。パートナーも含め男性も知っていてほしいことですし、周囲を巻き込んでいっしょに考える場をつくっていきたいです。私はWoman Wellness Programで更年期の調査にも携わりましたが、20代で更年期のことを知れたことはすごく貴重な機会でしたし、当事者以外を巻き込んだコミュニケーションが必要だと切に感じたので。
白根:身体とキャリアの話は密接に関わってくる問題ですし、キャリジョ研が旗振り役になりながら社内、社外を問わずみんなで取り組めるプロジェクトとして進めていきたいですね。

白根 由麻
2013年~博報堂キャリジョ研プラス

信川 絵里
2016年〜博報堂キャリジョ研プラス

下萩 千耀
2019年〜博報堂キャリジョ研プラス

小島 麻衣
2023年~博報堂キャリジョ研プラス

森川 芹
2022年〜博報堂キャリジョ研プラス

北里 礼
2023年〜博報堂キャリジョ研プラス