
2023年秋、女性たちを取り巻く社会課題へと専門領域を拡大してアップデートした「博報堂キャリジョ研プラス」。活動の柱である「ジェンダーギャップ」、「女性の健康課題」、「女性のキャリアデザイン」の3テーマのうち、今回は「女性のキャリアデザイン」についてクローズアップしてご紹介します。ライフキャリアを見つめるきっかけとして開発したボードゲーム『キャリジョの人生はいつだって戦略と偶然』の研修活動を振り返りながら、多様化する男女のライフキャリアについて語り合いました。
完成まで3年。10年分のライフプランを疑似体験できるボードゲーム
松村:今日は「多様化する男女のライフキャリア」をテーマに話していきたいと思います。キャリジョ研プラスでは2021年からボードゲームを使ったキャリアデザイン研修を提供していますが、まずはこのプログラムが生まれた経緯から振り返っていきましょう。

瀧川:きっかけは、講演会やゼミなど大学の先生方からご相談をいただく機会が増える中で、「キャリア教育」に対しても何かしらのアクションをしていきたいと考え始めたこと。当時ボードゲームが流行していたこともあり、より楽しくキャリア教育ができるゲームをつくってみよう!となって、2018年から企画をスタートさせました。リリースしたのが2021年なので、完成まで3年かかったことになりますね(笑)。リリース後、20件ほど研修を社外にご提供しています。

ボードゲーム型研修パッケージ『キャリジョの人生はいつだって戦略と偶然』
10年分のライフキャリアを疑似体験できるボードゲーム。プレイヤーははじめに10年後の目標を立て、それを達成するため年に一度「ワーク」「パートナー」「ライフイベント」など今年力を入れるべきテーマを設定。サイコロを振りながら、「結婚」「妊娠」「転職」といったさまざまなライフイベントを疑似体験する。
松村:実際にプレイしてみて、どんな感想を持ちましたか?
善福:自分の考え方のクセがわかったり、一緒にプレイしている人の性格も知ることができて、すごくおもしろかったです。
用丸:仕事なのか、恋愛なのか、趣味なのか...、1年に1テーマしか選べないというのがポイントですよね。そこに潜在的な価値観が現れるなと思いました。実際の生活だと目の前のことに没頭して周りが見えなくなりがちだけど、ゲーム上だと客観的に自分のライフプランを見つめられて、いい機会になったと思います。

学生向けから企業研修へ。クライアントの課題に合わせてカスタマイズ
松村:はじめは学生さん向けに開発したゲームでしたが、クライアント企業からのご要望もあってアップデートしているんですよね。
瀧川:そうですね。社内での職種転換を促したい、離職率を下げたい、男女間・世代間の相互理解を促進したいといったクライアント企業の目的に合わせてカスタマイズして研修を行っています。会社の実際の部署名を反映したり、性別がランダムに設定されるようにしたり。「女性のキャリアを疑似体験する」という開発当初のコンセプトから、もっと広く、ジェンダーレスに進化させているところです。


▲企業研修では、ボードゲームだけでなく、社内の意識調査なども組み合わせて実態把握を行うことで、よりクライアント企業の実態・課題に即したかたちでキャリアデザイン研修を提供。
松村:社外からの反響はどうでしょう?
山田:人事の方からいただいたフィードバックでは、「キャリアデザインを後回しに考えがちな若手社員にとっていい機会になった」「その人にとって人生でなにが大事なのか垣間見ることができた」といった声をいただきました。


瀧川:「自分は意外と、結婚してプライベートを安定させてからじゃないと仕事に邁進できないタイプだった」とか、疑似体験することで気づきがあるのがおもしろいですよね。あと、1年に1枚ストレスカードがたまる仕組みになっているのが秀逸と言っていただけます。5枚たまると1年休まなくちゃいけない。そうなる前に趣味で発散する人もいれば、目の前のことに夢中になり過ぎて、気づいたら5枚たまっていた、という人も意外に多いんです。ストレスとの向き合い方を考えられたという声もいただきます。


現実も「戦略」と「偶然」の繰り返し。偶然をポジティブに捉えられるか
松村:『キャリジョの人生はいつだって戦略と偶然』というタイトル通り、「戦略」の部分とサイコロによる「偶然」の掛け合わせでゲームが進んでいきますが、みなさんの実際のキャリアではいかがですか?
善福:私は営業職からクリエイティブ職に異動したのですが、それは「戦略」として選択したこと。大学院で理系の勉強をしていたところから博報堂に入社したので、右も左もわからなくて。まずは営業職で全体を勉強して、そこからクリエイティブに興味を持って職種転換試験をうけました。「偶然」という意味ではやっぱり出産ですね。でも、子育て中のアイデアを仕事に活かすことができたので、結果的にはすごくよかったと思っています。

山田:私は博報堂に入るというところまでは「戦略」でしたが、配属されたのは経理財務局。あまり広告会社らしくない部署ではありましたが、そこで一緒だった同僚と結婚することに。その後、部署の希望をきかれたときに「どこでもいです!」って答えたんです。そうしたら、会社が力を入れているデジタルの部署に配属されていまに至ります。このゲームをやっていたこともあって、希望を出したとしても何が起こるかわからないし、偶然に身を委ねてみるのもいいのかなって(笑)。そういう意味では選択的な偶然だったのかもしれません。
松村:みなさん偶然への適応力がありますよね。
善福:偶然をポジティブに捉えるというのが大事なのかもしれませんね。ゲームのなかでもそれを疑似体験できると思います。
自己理解だけでなく、相互理解のツールとしてアップデートしつづけたい
松村:さきほど話に出たように、現状もさまざまなクライアント企業のご要望に合わせてカスタマイズを行なっていますが、これからさらに多様化するライフキャリアに対応するため、どんなアップデートをしてくべきでしょうか?

瀧川:現状、子どもが生まれると1年育休を取るルールになっているんですが、実際子どもが生まれたら、お金が出ていくだけでなく趣味に費やす時間もなくなるし、ストレスも何倍にも...(笑)。そのあたりもうまく反映できたらいいですよね。あとは、ある程度キャリアを積んだ方がプレイすることも想定して、管理職になった場合の達成感やストレスを組み込んでいきたいです。
松村:このゲームは「自己理解」を深めるだけでなく、プレイ中の会話を通じて他人の価値観に触れることで「相互理解」にも活用できるものなので、ジェンダーや世代間ギャップの視点は重要ですよね。女性にはこういうライフイベントがあるんだ、管理職にはこういう悩みがあるんだというのを理解するためにもすごく役立つと思います。
用丸:性別や世代、そういったさまざまな価値観の違いを、ゲーム感覚で嫌味なく共有できるのがいいところですよね。いまは「ロールモデルはいらない」という時代。自分の人生を自分の価値観でカスタマイズしていく時代です。その変化を客観的に見つめるためにも、すごく意味があると思います。
松村:今日はボードゲームの話を中心にしてきましたが、それ以外で「多様化する男女のライフキャリア」というテーマで今後トライしていきたいことはありますか?

善福:「育児休業」という言葉について考えて、キャリジョ研として発信していきたいという想いはあります。育休って決して休んでいるわけではなくて、会社では経験できないことを学んでいる期間。いわば「留学」期間なんじゃないかと思うんです。それは育児だけでなく、介護も同じ。博報堂は生活者視点を大切にしているので、個人的には「生活者留学」という概念で育児休業や介護休業を捉え直していきたいです。
松村:そうですよね。「キャリジョ研プラス」になって、女性だけでなくすべての人が生きやすい"ニュートラルな社会"づくりに向けた発信をしているので、みんながストレスなく多様なライフキャリアを描けるよう活動をつづけていきたいと思います。ボードゲーム研修も、ジェンダーレス、エイジレスに対応できるよう今後もアップデートしていきますので、取り入れてみたいという企業様はぜひお声がけください。

瀧川千智
2013年〜博報堂キャリジョ研プラス

善福沙李
2023年〜博報堂キャリジョ研プラス

用丸紗希
2022年〜博報堂キャリジョ研プラス

松村和
2020年~博報堂キャリジョ研プラス

山田寛子
2021年~博報堂キャリジョ研プラス