博報堂DYグループは、高校生向けの探究学習プログラム「Hasso Camp Project ミライ」を8月に実施しました。「Hasso Camp Project ミライ」は、全3回、夏季休暇期間の約1ヶ月をかけて社会的テーマに挑戦するプログラムで、実践の中で「発想力」と「創造性」を育んでいきます。
今年のテーマは「居場所」。居場所という言葉には、場所としての機能だけでなく「安心できる精神的なつながり」という意味も含まれており、世界でも「安心できるコミュニティ」を表す言葉として「Ibasho」という表現が使われ始めています。また近年、授業や交流のオンライン化が進み便利になった一方でつながりが希薄になっていたり、各地でたびたび発生する災害において地域や関係者のレジリエンス(回復力)への注目が高まっていたりする中、居場所の重要性が再認識されています。
今年は23人の高校生が参加。博報堂DYグループ社員とチームになり協力し合いながら、これからの新しい居場所について考えていきました。
【Day1】「居場所」の役割の再確認
8月初旬、23人の高校生と博報堂DYグループの社員が一堂に会しました。まず高校生と社員が6つのチームに分かれ、アイスブレイクとして自己紹介を行い、チーム名を決めることからスタート。
全体の進行を務める博報堂ストラテジックプラニング局の今井郁弥より、今回のテーマである「居場所」について、3日間のプログラムを通じ、各チームで「ちょうどいいつながりを保てる新しい居場所」に関するアイデアを考えていただきたいと説明。
その後さっそくチームワークに取り組みます。はじめに、それぞれが持つ「居場所観」を整理。ポストイットを活用して、「自分にとっての居場所」と「その場所を居場所と感じる理由」についてチーム内で共有しました。
自分とチームメンバーの視点・意見を出し合ったところで、有識者による最初のインプット。「こども食堂」の支援を通じ、誰も取りこぼさない社会の実現を目指して活動する「認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」の理事長 湯浅誠氏より、「居場所とは何か。なぜ必要なのか」をテーマにお話があり、居場所についての理解を深めていきました。
「僕自身も正解がわかっているわけではないですが」と前置きがあったうえで、居場所とは「誰かにちゃんと見てもらえている、受け止められている、尊重されている、つながっていると本人が感じられるような関係性のある場のこと」をいうのではないかと話します。さまざまな調査データを示しながら、居場所の数が多いと、子どもの自己肯定感や社会性が有意に高まることを示し、「より多くの人によりたくさんの居場所があること、どんな人にも少なくとも一つの居場所があることが大切です。そして、居場所を考えるうえでの手がかりは、『居場所は、"DOING(=がんばったから認められる)"よりも、"BEING(=いるだけで認められる)"と親和性が高い』という点を意識することです」と語りました。
湯浅氏からのインプットを受け、高校生からは
「自分から居場所をつくりにいくよりも、いつの間にか居場所になっているという状況がいいと思う。会話が自然と弾むような場所が、居場所になっていくのではないか」
「居場所が多いほど自己肯定感が高いというお話があったが、居場所が多いとかえって疲れる気もする」
「学校を居場所と感じている人は約半数いるとのデータがあったが、心の底から学校を居場所だと感じている人はどのくらいいるのか、そう思う人を増やすためにはどうしたらいいのかと考える」
など、さまざまな気づきや意見が出されました。
続いて、読売広告社 ストラテジックプランナーの藤田剛士とストラテジスト・コミュニケーションデザイナーの秦瞬一郎が、SIGNING社・環境計画研究所と共同で実施した居場所に関する調査「iBASHO REPORT」から、生活者にとっての居場所について講義。調査結果から、「生活者は居場所に、自分だけで完結できる感情だけではなく、他者がいてこそ成り立つ感情も含めて多くの感情や欲求を満たせることを求めている」、そして「これからの居場所のあり方は、家・仕事場・それ以外という『役割』で分類するのではなく、一人だから満たせる場所・二人でもしくはみんなといるからこそ満たせる場所という『感情』よって分けるべき」と解説。特に自分の居場所を見つけにくい状態にある人にとっての新たな居場所のあり方を考えるヒントを提供しました。
湯浅氏と読売広告社 藤田・秦からのインプットを踏まえ、「居場所と感じさせる要素」について各チーム内で共有。その中で特に重要だと思う要素についてディスカッションした後、この日最後のインプット。Day2のフィールドワークに向けて、博報堂コンサルティングの岩佐数音よりインタビュー調査の心得とポイントを説明。今回の最終ゴールとして掲げられた「どうすれば高校生にとって"ちょうどいいつながり"を保つ場所をつくれるか?」という問いに答えるための視点を得ることを目指し、その基盤となるインタビューガイドの作り方などを紹介。それを受けて、フィールドワークで聞きたいことを各チームで話し合い、Day1を終えました。
【Day2】フィールドワーク:こども食堂へ見学
Day2は、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえのご協力のもと、チームごとにこども食堂を訪問させていただきました。実際の食堂の様子を見学しながら、運営代表の方へのインタビューを通じ、こども食堂の居場所としての役割や、運営者としての想いなどを直接うかがいました。
運営者の方からは
「利用する人たちにとって居心地のいい場所にするために、深入りせず、表情を見て対応するようにしている。構いすぎず、『ちょっと寄ってく?』とあくまで参加は自由という雰囲気を大事にしていて、子どもたちの成長をみんなで見守る環境になっている」
「学校を卒業したら来なくなってもいい。自分になじむ居場所をたくさん見つけて、人とのつながりを大切にしていってほしいと願っている」
と温かいお話があり、高校生たちは真剣に耳を傾けていました。
今回訪問したこども食堂の一つ「要町あさやけ食堂」では、近隣の大学生などもボランティアとして参加しており、2階建ての自宅を開放した空間は多くの人で賑やか。立ち寄る子どもたちに押し付けではなく、そっと寄り添うような、温かい居場所づくりに尽力されていることが体感できた貴重な時間でした。
参加した高校生からは、
「こども食堂の存在はなんとなく知っていましたが、直接行ったことはなかったので、体験できてよかった」
「地域の人が自主的にビラを配ったり食材をくれたり、謙虚だけれどもしっかり努力して地域の人たちに支持されている姿が印象的だった」
といった声が聞かれました。
【Day3】新しい居場所のアイデア発想とプレゼンテーション
Day3はいよいよ、「新しい居場所」のプレゼンテーションを行います。まず、Day2のこども食堂への訪問を踏まえて、各人がどんな気づきがあったかチームごとに振り返りました。それをもとに、「ターゲットインサイト」と「居場所と感じるための最も大切な要素」、そして「新しい居場所のアイデア」を磨いたうえで、チーム内でアイデアを一つに絞っていきます。最後に、チームで決めたインサイト・要素・アイデアをストーリーとして発表できるよう準備し、いよいよプレゼンテーションです。
■各チームのプレゼンテーション
<チーム①おーいほうじ茶>
【ターゲット】進路に悩んでいる高校生
【インサイト】身近ではない人がいい。経験者からのアドバイスが欲しい
【居場所の要素】本音を言える。背中を押してもらえる
【居場所のアイデア】いつでも本音(リアル)が交わる場所(オンライン・オフライン)
<チーム②ポチャッコ>
【ターゲット】推しにリアコな高校生
【インサイト】推しが生活の彩り。推しを通してつながる。推しがいる自分が好き
【居場所の要素】決まりと自由のバランス。推し友とのちょうどいい距離感
【居場所のアイデア】推しの輪を広げよう!!サークル委員会
<チーム③KAWAII>
【ターゲット】人間関係に悩む高校生
【インサイト】好きな人とだけ関係を続けたい。一人で休む所が欲しい。話すきっかけや共通の話題が欲しい
【居場所の要素】ひとりでも楽しめて、誰かともつながれるしがらみのない空間
【居場所のアイデア】ALONE & TOGETHER
<チーム④ライブもぐもぐ>
【ターゲット】時間に追われている高校生
【インサイト】息抜きしたい。ちょっと逃げたい/リセットしたい。追われている
【居場所の要素】アットホーム感。居心地のよさ。ほっとする。安心できる
【居場所のアイデア】高校生のためのマイホームズ
<チーム⑤RASKT>
【ターゲット】なりたい像が決まっている/決まっていない高校生
【インサイト】誰しもなりたい像がある
【居場所の要素】自分らしさの選択肢(ほどよいルールがある、一人でも複数人でもOK、空間だけ準備)
【居場所のアイデア】Think TanQ(何かが得意な学生が集まって知識やアイデア・スキルを共有できる場所、創造的な活動を行える場所)
<チーム⑥ブルー>
【ターゲット】不安や焦り、孤独を感じる受験生
【インサイト】一緒に助け合える仲間が欲しい
【居場所の要素】知り合いではない人と応援し合い、モチベーションUP
【居場所のアイデア】頑張る受験生のための勉強アプリ
6チームの発想豊かで力の入ったプレゼンテーションを受け、レビュワーからは
「居場所というものについて、場所という空間だけでなく、組織やアプリケーションなど、形にとらわれずにそのあり方を捉え、自由に考えることができていて、みなさんの柔軟な発想力を実感した。居場所という言葉は多様に解釈することができて、いろんな可能性を秘めているんだなということをあらためて感じた」
「3日間の学びをしっかり血肉にされたことがわかるプレゼンだった。皆さんの発表には共通するキーワードがいくつかあった。一つは『選択肢』。プレッシャーを感じることから解放されたい人もいれば、向上心を持って仲間と一緒に頑張りたい人もいる。夢が見つかっている人もいれば、見つかっていない人もいる。いろんな人がいる中で、誰かが切り捨てられてしまうのではなく、みんなに選択肢があることを意識されていた。二つ目は『目的』が明確なこと。高校生の皆さんは誰もが何らかの目的・目標を持っていると思うが、その目的にフォーカスした選択肢が与えられていた。そしてもう一つは『助け合い』。Day2でこども食堂を見学してより強く感じられたのかなと思うが、プレッシャーにならない、押し付けにならない助け合い方を意識されていた。これはこれからの社会の中で大事なことだと思うし、我々も考え続けていきたいと思っている」
といった講評がありました。
プレゼンテーションのあと、コペンハーゲンを拠点とする都市デザインのコンサルティング会社Gehl Architects(ゲールアーキテクツ)のSophia Schuff(ソフィア・シュッフ)氏からスペシャルインプット。Gehlが世界中で実践している人間中心の都市づくりの事例を紹介しながら、「私たちの住む都市は、必ずしも生活者の行動や習慣の実態に合わせてデザインされていないこともあるが、私たちが都市の未来をどう描き、どう創るかが、生活者の暮らし方や生き方に大きな影響を及ぼす。公共空間をデザインすることは、人と人がつながり、他者を思いやり、礼儀正しく、一人ひとりが尊厳を持って過ごすことのできる『居場所』を創ること」と語りました。
最後に、参加した高校生の皆さん一人ひとりに修了証が授与され、3日間のプログラムが終了。3日間を通じて、それぞれが多様なアイデアを出し合い、お互いの意見にしっかり耳を傾けながら、仲間とともに発想する過程を楽しんでいた様子がとても印象的でした。
参加した高校生の皆さんからは
「一つの視点ではなく様々な視点から物事を見る事で感じる気持ちの違いを改めて知り、より大切にしたいと思いました」
「元々コミュニケーションをとることが苦手だったけど、今回参加して、前より人と話したり自分の意見を言うことに自信がついたと思います!」
「短時間で自分の考えをまとめる力がついたり、色んな方とのコミュニケーションを通して自分にない考えにたくさん触れられて良かったです」
「初めて会う人同士で参加することに緊張していましたが、三日間を通じていい関係を築けると同時に、多くの学ぶことがありました。これらはこれからの探究活動にも活かしていきたいです。今回の活動で目指していくべき探究の目標も思いついたので、とても充実し、成長した三日間となりました」
といった感想が寄せられました。