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Hakuhodo コラム

「広告の拡張性を物語る受賞になれば」2024年クリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞 博報堂 宮永充晃インタビュー

公開日:
2025/05/12

一般社団法人日本広告業協会(JAAA)が主催する「クリエイター・オブ・ザ・イヤー」は、その年の広告コミュニケーションに関して最も優れたクリエイティブワークを行った個人を表彰する賞。1989年にはじまり2024年度で36回目を迎える歴史ある賞を、博報堂のクリエイティブディレクター宮永充晃が受賞しました。
データ分析からブランド戦略、社内浸透、コミュニケーションまで、企業のブランティングをトータルに手がける宮永が考える広告クリエイティブとは?キャリアのなかで重要な分岐点となったできごとについても聞きました。

仕事の中心はブランディング。自分のようなクリエイターが受賞できたことに驚き

-これまで錚々たる広告人が受賞してきた「クリエイター・オブ・ザ・イヤー」ですが、まずは受賞された率直な感想を聞かせてください。

宮永:僕のようなタイプが受賞できること自体が驚きというか、普通にびっくりしました。素直に嬉しい気持ちはありますが、この賞は年間の活動においていただけた賞であるので、チーム・クライアント様には大きな感謝しかありませんし、更に言えば、広告という文化を紡いでくれた業界全ての諸先輩方への敬意でいっぱいです。

-JAAAクリエイティブ委員長の藤井久さんが、「広告業界はどんどん進化している、その進化の象徴が クリエイター・オブ・ザ・イヤーと言ってもいい」とコメントされていますが、宮永さんの受賞は広告業界の変化を物語っている?

宮永:一般の方にとって、やはり「広告=CMをつくること」という印象はまだ強くあると思います。でも、実際にいま僕らが取り組んでいる仕事は商品開発やブランディングなど多岐にわたっていますし、広告という言葉のイメージと現実の仕事に乖離が生まれている気がするんです。今回この賞をいただいたことで、広告の仕事はCMだけでなく、もっと拡張性があるものなんだと感じていただけたらうれしいですね。

-先ほど「僕のようなタイプ」とおっしゃっていましたが、宮永さんはどんなタイプのクリエイターなのでしょう?

宮永:ひとことで言うとブランディングをやっているのですが、ブランディングの語源って牛につける焼印のこと。いまで言うとブランド牛に貼るシールみたいなものですね。シールのデザインをかっこよく創ることがブランディングではなくて、牛の品質をよくすることが本当のブランディング。そのためにはいい牧草を育てなくてはいけないし、牧場の環境も整えなければいけないし、そこで働く人のモチベーションもあげなくてはいけないんです。
これが全部揃ってブランドだから、必要なことは全部やる。戦略もつくるし、クリエイティブのアウトプットもつくるけれど、それがクライアントのなかでちゃんとワークするように、例えば細かい話ですが、関係する会議体をどうしていくかなど、社員の方々を巻き込むためのインナーコミュニケーションまでトータルに携わっています。

貼られずに放置されたポスターの存在。アウトプットを作るで終わらないことが大切

-ブランディングにおいてインナーコミュニケーションまで手がけるというスタイルになったのには何かきっかけがあったのですか?

宮永:入社5年目に担当していたとあるメーカーさんでの経験が大きかったですね。業界トップ企業の経営層の方とお仕事をさせて頂いた時に、自分が商品開発の企画を提案したところ「君は部品一つの値段をわかって言っているのか」と厳しくご指摘いただいたことがあって。それ以来、工場に出向いたり、地方の店舗を視察に行ったりするなかで、製品をつくり、ブランドを育てていくさまざまな立場の方に会うことができました。
店舗に行くと、自分たちがつくったポスターがバックヤードに置かれたままになっていることもあって、話をきいたら「前のほうがよかったから貼らない」と言われたり。そういった現場の状況を目の当たりにしたことは、僕にとってすごく衝撃的な経験でした。
アウトプットだけつくっていても意味が無いのかもしれないという危機感に似た緊張感を覚えました。働いている人のモチベーションをあげて、ちゃんと同じ方向を見ないと、プロモーションしても売ってもらえないんです。そこからすべてを見る目が変わって、6年目からはCMの仕事は極力抑えてブランディングの本質を突き詰める仕事をしてきました。

-本質的なブランディングというのはどうやって築きあげるものなのでしょう?具体的な事例も交えて教えてください。

宮永:ドン・キホーテの仕事がわかりやすいかもしれません。手がけている、PB事業の拡大を目指す業務です。プライベートブランドを伸ばすためには、生活者に「意味のある商品だ」と思ってもらわなくてはいけない。そのためには当たり前ですがちゃんといい商品をつくらなければいけない。つまり、PBを背負っていく事になる社員の方々と共にブランド創りを強い想いを持って取り組んでいく必要があります。その為には、どんな会議体にするのか?、どのような商品企画をしていくのか?という部分まで一緒に考えていく必要があると思い、並走させていただきました。

■PPIH /「情熱価格・偏愛めし」
■PPIH /「ダメ出しの殿堂・マジボイス」

-取り組むべき課題がどこにあるのか、どうやって見極めるのでしょう?

宮永:例えば、ドン・キホーテさんのケースでは、どのようにしたら、情熱価格を店舗で展開し易いのか?更に言えば、情熱価格を盛り上げていこうという気持ちになっていただけるのか?という部分をローンチ後も、都度、社員の方々と話し合いながら、温度感を見極めていました。中々、温度感が高まっていない場合には様々な立場の方へお話を伺い、どこでボタンのかけ違いがおきているかを徹底的に探ります。
大きくブランドの方針が決まったあとも、さまざまな立場の人に話を聞きながら柔軟に対応していくことが大事。外してはいけないブランドの考え方はありますが、やりづらい部分があれば臨機応変に変えていけばいいと思うんです。

クライアントに敬意を持ち、丁寧に、柔軟にコミュニケーションする

-メーカー企業にとって、広告会社だからできることは何だと考えますか?

宮永:広告会社が持っているクリエイティブの力というのは、商品やサービスを世の中に投げかけたときそれを「どのように生活者に良いと思って貰えるか?」という事に対しての知見を多く持ち合わせている事です。それを商品施策に活かすためには、会議体をデザインしたり、社員の方々のモチベーションをあげるためのインナーコミュニケーションを設計することも重要な仕事だと考えています。
でも実際には、僕たちが入っていくことでクライアントのなかに拒否反応のようなものが生まれることもある。メーカーさんはものづくりのプロで、現場には現場の理論と事情があるし、様々な要因と向き合いながら仕事をされているからです。だからこそ僕たちは、クライアントに最大級の敬意を持ってプロジェクトに臨み、お互い意見をストレートに言える関係性を築きながら、柔軟に正しい/あるべき形をめざしていく。僕たちが解らない事があれば、無駄なプライドは捨ててクライアントに教えて頂き、たくさんの方に話を伺うという、本当に基本的なコミュニケーションを大切にしていますね。

-今回の受賞の評価ポイントにも「クライアントのなかに飛び込み、なかにいるからこそ見えてくる事業の課題をクリエイター視点のアイデアで結果を出した」というコメントがありました。

宮永:そうですね、そこを評価していただいたことは、クリエイティブの解釈の幅が広がったという意味でうれしいです。やっぱり入社5年目の経営者の方との出会いと、バックヤードに取り残されたポスターを見たという経験はすごく大きかったですね。自分のキャリアのなかで重要な分岐点だったと思います。

-さいごに、今後取り組んでいきたい仕事など展望があれば教えてください。

宮永:商品開発やインナーコミュニケーションも含めたデザインをすることにクリエイターの未来があると思いますし、
今も取り組んでいるアプリやサービス開発などのプロジェクトを、同じスタイルで更に拡大していけたら嬉しいなと思います。そして、このようなスタイルが当たり前になれば、まだ見ぬ次世代は、それを当たり前と捉え、「もっとこういう事がやりたい・やるべきだ」と
僕自身が気づかない、気づけない新しい景色を拡げてくれると思います。それにそうやって、次世代が好きな事でどんどん可能性を拡げてくれる未来の方が、楽しいじゃないですか。

宮永 充晃
博報堂 クリエイティブ局 クリエイティブディレクター

2012年博報堂入社。クリエイティブディレクター / クリエイティブ局部長 / YOKI リーダー。博報堂DYメディアパートナーズに出向し通販クライアントを担当。その後、マーケティング部門に異動し、 コミュニケーション戦略・商品開発・事業戦略・中期経営計画策定を担当。現在は、クリエイティブ部門に属し、複数領域を統合的にプラニング。

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