※北日本新聞「webunプラス」に2025年5月1日に掲載された記事の転載です。
朝日町が全国の自治体や霞ケ関から注目を集めている。DX(デジタル・トランスフォーメーション)で連携協定を結ぶ博報堂(東京)と官民一体の新たな行政スタイルを打ち出し、マイカー乗り合いサービス「ノッカルあさひまち」、マイナンバーカードを活用した公共サービスパス「ロコピあさひまち」などを展開する。今後の進展に向け、地方創生に関わる大臣経験者や官僚、ジャーナリスト、町長ら7人が座談会に臨み、地方から日本の将来を変える可能性を探った。
【座談会参加者】
◇ゲスト
▽新藤義孝氏(前経済再生担当大臣、自民党政調会長代行)
▽黒瀬敏文氏(内閣府政策統括官)
▽浜田敬子氏(ジャーナリスト)
▽川井潤氏(ライター、食べログフォロワー数日本一)
◇町側
▽笹原靖直氏(朝日町長)
▽坂東秀昭氏(みらいまちラボ共同代表、建築会社「家印」社長)
▽畠山洋平氏(博報堂地域共創プラットフォーム事業推進局長、朝日町次世代パブリックマネジメントアドバイザー)

「春の四重奏」として親しまれる朝日町・舟川べりの桜並木が満開を迎えた4月12日。座談会は「朝日町から地域社会の未来を考える会」と題し、町ふるさと美術館で開かれた。
最初に、これまでの「ノッカル」「ロコピ」の取り組みを振り返った後、今後の公共DXサービスの充実に向け、町が計画している「まちづくり会社を中核とした官・民・地域共創型『たのしい未来』づくり事業」の説明があった。
そして、町のDX施策に携わっている畠山氏が進行し、「朝日町の印象はどうか」「地域社会の現状と課題、朝日町に期待すること」の2テーマについて、7人が町内外それぞれの視点で意見を交わした。
―「朝日町の印象はどうか」
■朝日町が日本の先頭
【新藤】自民党地方創生実行統合本部で仕事をしていた時、朝日町が始めた「ノッカル」の事業を知った。公共ライドシェアのような取り組みを日本のどこかで実現したいと考えていたので、笹原町長に東京まで来てもらい、改めて話を伺ったのがご縁の始まり。地方で過疎化や少子高齢化が進み、普通に考えて縮小するしかない状況の中、逆にチャンスと捉えて新しい地域社会づくりに挑戦した姿勢に共感を持った。「ノッカル」は交通事業者だけではなく、動ける人が互いに助け合いながらシェアリングする仕組み。医療や介護、生活支援、飲食の領域にも広めるため、個々人のIDとも言うべきマイナンバーカードの活用を勧めた。その後、町ではマイナカードを活用した「ロコピ」サービスが生まれた。国内では、人口減少の中でも社会的な課題をビジネスに変えていくことが求められており、日本が目指すべきところを朝日町が先頭でやってくれている。

【黒瀬】総務省地域力創造グループの審議官だったころ、朝日町の取り組みに関わった。とにかく元気な町で、町長がさまざまにチャレンジし、地域のコミュニティーが機能しているという印象だった。しかし、実際に現場を見てみると、コミュニティーが機能しているのではなく、機能させようと努力や苦労が重ねられていることを知った。都会から見ると、失われたコミュニティーが地方には残っているなと感じていたが、勝手な空想でしかなかった。地方ではいかに周囲を巻き込んで事業を進めるかが重要であり、朝日町では外部の博報堂との連携で成り立っていると思う。

■町外のアドバイス必要
【笹原】2014年の町長就任直後、朝日町は「消滅可能性都市」と名指しされた。以来、町を変化させようと、やれることは何でもやるとの気概で町政を運営してきた。これまで目にした元気な地方自治体と言うのは、行政や民間ではなく、地域住民がよく活動していた。地域が参画してこそ、より良い持続可能なコミュニティーになっていくと実感している。だが、人口1万人規模の我が町では限られた人材しかいないのが実情で、外部から博報堂のようなノウハウを入れることが必要だった。「井の中の蛙」では駄目。今後も町外から有識者や経験者の関係人口を増やし、アドバイスをもらっていきたい。

【坂東】町民の視点から話すと、以前からコミュニティーはあったと思う。ただ、町全体でまとまった方向性があって、そこに向いて走っているわけではなかった。このほどの「ノッカル」「ロコピ」など町民を巻き込む新たな取り組みがきっかけとなり、コミュニティーの動きも一つのベクトルに合わせやすくなっていくだろう。

■解決モデル・官民連携の手本
【浜田】2022年にあった日本パブリックリレーションズ協会の「PRアワードグランプリ」で審査委員を務めた際、最優秀賞を贈ったのが朝日町と博報堂の「ノッカル」だった。正直、それまで朝日町は知らなかった。どこでも地域交通は大きな問題になっており、「ノッカル」が一つの解決モデルになるだろうと感じ、取材のために町を訪れた。大企業の博報堂がお金もうけのためにやっていると想像していたが、実際は町の課題解決のために徹底的に深掘りしていたのが印象的だった。博報堂も地域交通の課題に取り組もうと、多くの自治体に声を掛けたが、初めて耳を傾けてくれたのが笹原町長だったと聞いている。普通は警戒するのが当たり前だが、「消滅可能性都市」と位置付けられた危機感から町長も外部の知恵を活用したい思いが強かったのだろう。官民連携を掲げながらうまくいっていない事例が多い中、朝日町の取り組みはお手本になっている。

【畠山】博報堂としても「なぜ朝日町を手伝っているの」「どうして支えてあげているの」と疑問を投げかけられる。だが、そんな考えは全くなく、町から教えてもらうことがたくさんあった。我々は、社内事業の変容を目指して勝負をかけ、町と同じ目線で課題に向き合っている。民間はハイリスク・ハイリターン、行政はハイリスク・ローリターンの考え方。行政は今あるものを着実にやることが大事なので、その部分で役場側の変容も見いだせた。

■すし用ワサビの栽培起点に
【川井】私は食をテーマに活動しており、朝日町に来たのは今回で3回目。一番に感じるのは、水が豊富であること。「歯磨きで水は流しっぱなしだよ」と町長が話すほどで、ぜいたくな使い方をしている。地元ではありがたみを感じないのかもしれないが、水資源の活用方法を追求した商品づくりも必要だ。水が良ければ、土も良い。富山県はブランディング戦略で「寿司といえば、富山」を打ち出している割には、ワサビや酢がないという話が出ていた。でも実は、朝日町にワサビがあった。町を県内のワサビ栽培の起点にしてはどうか。大自然をうまく活用して食材をアピールすべき。富山湾で捕れるホタルイカや白エビも観光客は食べたいと思っているので、それを産業の種にするのもありだろう。

―「地域社会の現状と課題、朝日町に期待すること」
■自然PR、ジェンダー平等も改革の柱に
【川井】私はいろいろな場所に足を運ぶが、日本は各地にそれぞれの特徴があって、全てが魅力だと思っている。食材のバリエーションに富んでいるし、それぞれの良いところを見て回るのが面白い。東京にはさまざまな地域から食材が集まってくるが、地方にはそこでしか食べられない希少価値の高い物もある。日本中にある宝の山の中で、朝日町ならではの光らせ方があると思うので、豊富な水など自然資源を生かして勝負してほしい。インバウンド(訪日客)が増えているので、町の自然自体を売りにする改革を行えば、「川のきれいな町」「海のきれいな町」として発信でき、有意義だろう。
【浜田】日本各地でジェンダー格差をテーマに取材している。2024年に「消滅可能性自治体」が公表された時、若い女性の流出がクローズアップされたが、「女性のせいにするのか」と怒りの声が上がった。女性が流出せざるを得ない環境にメスが入らない苦しい状況がある。富山県は家父長制が根強く残り、共働き率が高いと言われながら、家事や育児は女性に頼っていたりする。この座談会の参加者も女性は私1人だけ。半分を女性にするなど見える形で意識を変えなければ、この町で育った女子たちは将来を見いだせない。ジェンダーギャップ解消で有名になった兵庫県豊岡市は、女性へのヒアリングを基に職場改革を行った。お茶くみをやめたり、若い経営者が自ら育児休業を取ったりし、「うちの町、変わってきたね」という雰囲気をつくった。朝日町でも、こういった取り組みを改革の柱の一つにしてもらいたい。

■全国への横展開に期待
【黒瀬】私の問題意識はコミュニティーにある。2040年までに生産年齢人口は1200万人減ってしまい、高齢化に伴って2人に1人は65歳以上という世の中になる。一方、内閣府の調べでは、65歳以上でも働きたいと望む人が圧倒的に多い。そう考えると、多世代が混ざり合ったプラットフォームを整えたい。地域にある仕事のニーズを掘り起こし、やる気のある人をマッチングしていくプランが求められる。朝日町に期待することを挙げると、「ノッカル」「ロコピ」などの導入に至ったプロセスも大切にしてほしい。スーパーや小学校で徹底的に行ったニーズ調査など泥臭い作業があった上で、先進的な施策を実装できている。努力や苦労のプロセス自体が一つのモデルになり得る。完成パッケージを横展開するだけでは意味がなく、このプロセスも全国の自治体に広げてほしい。
【新藤】朝日町にぜひ期待するのは、これまで展開してきた地域交通やマイナカードのサービスにおいて、経済性をどう実現していくかということ。公共サービスとして、全てを税金や国の補助金でまかなうのは限界がある。大もうけしなくてもいいが、数百円とか受益者負担をしてもらいながら運営しなければいけない。そこで今回、「まちづくり会社」を設立し、官民に地域住民らを加えた三者一体で運営していく構想は素晴らしいトライになるだろう。国が実施主体になって基盤をつくり、地方自治体がランニングコストを回収できる事業を進めていくのが理想。私は、この仕組みを次の経済成長戦略の中に加えようと考えている。朝日町と博報堂の事業を手本とし、全国展開を図られたい。

●解説●
▽マイカー乗り合いサービス「ノッカルあさひまち」
2021年10月に本格開始した公共ライドシェアサービス。地域住民がマイカーを使ってドライバーとして参加し、近所の住民同士が乗り合いで利用する。乗車予約やドライバーの運行管理などをデジタル化し、双方の利便性を高めている。地域交通の新たなモデルケースとして県内外の自治体に拡大中。

▽マイナンバーカードの公共サービスパス「ロコピあさひまち」
国のデジタル田園都市国家構想交付金の採択を受け、2023年度にスタート。住民が持つマイナカードの空き容量を活用している。公共施設や学校の端末へのタッチによる小学生や高齢者の見守りをはじめ、地域通貨、防災管理など多彩なサービスを展開する。登録者数は約2800人。
