
企業のコミュニケーションやマーケティング課題に、さまざまな「得意技」でクリエイティビティを発揮する博報堂のクリエイターやマーケター。連載「Next Creativity Map」では、クライアントの課題に寄り添い、解決、変革へと導くランドマーク人材にスポットを当て、その「技」を解き明かします。第20回は、戦略CDの水野康平。構想を描くだけでなく、広告・PRからインナーアクティベーションまで"実装"にもこだわり抜くという企業変革の取り組みについてご紹介します。
データと仮説を組み合わせ、事業成長に必要な課題を解像度高く考え抜く
-水野さんはキャリア入社で2013年から博報堂に在籍していますが、担当領域について教えてください。
水野:制作会社から転職して、プロモーションやデジタルの知見を活かした企画業務を担当してきました。当初はエグゼキューション領域が中心でしたが、それだけで解決できない部分も大きいと感じ、上流の戦略パートまで携わるようになりました。現在は小売・金融・ITサービスを中心に、戦略策定からエグゼキューションまで幅広く担当しております。例えば、とある小売クライアント様では、広告・PRだけでなく、社内機運をどう醸成していくかといったインナーアクティベーションまでご支援しております。
-はじめはコミュニケーションのお仕事からスタートしたのですか?
水野:最初の接点はプライベートブランド(PB)のリブランディングでした。コミュニケーション全体の設計とプロモーション企画を担当していたのですが、当然それだけで数字は伸びません。僕が得意としているのは、データと仮説を組み合わせ、事業成長に必要な課題を解像度高く考え抜くこと。そこに大小はありません。
あるとき、PB配荷率を高めたいとご相談いただいた際は、社員アンケートからPBに対する本部と店舗の認識の違いに着目しました。本部スタッフはすごく良いものだと評価しているのに、店舗スタッフの評価は低い。アンケートをすべて読み込んだ結果、本部の熱気が伝わっておらず、店舗との間に「物理的・心理的な距離」があると感じたんです。
だからこそ、店舗スタッフがPBを"自分ごと化"できるような企画をご提案しました。バックヤードでひとつの商品を1個まるごと配り、「これをどうアレンジしたら美味しいか、アイデアを投稿してください」というコンテストを開催したんです。みなさんが楽しんで参加いただけて、実際食べたら美味しいというのも伝わった。「美味しいから売ろう」と思っていただけ、店頭での露出もすごく拡がりました。結果は売上150%増。ポイントだったのは、食べ方を考えていただくという参加性を組み込んだこと。能動的なアクションを促すことで、インナーを巻き込めたと考えています。ちょっとしたことですが、プロモーションの「人を動かすスキル」は、顧客だけでなくインナーにも活かせる。この発見が、提案の幅を拡げてくれました。

「画に描いた餅」は描かない。企画力で経営層と現場を繋ぐ存在になる
-従来の広告業務とは違うアプローチですが、クライアントとの向き合い方が変化したのはいつ頃からでしょう?
水野:いまのように、インナーまで意識して提案するようになったのは3年前ぐらいからでしょうか。コミュニケーションの効果を高めるには、社内のモチベーションUPも必須。インナー視点も組み込んだ広告メッセージの開発から社内アワード企画まで、社内も巻き込めるような企画を提案しています。
-そこまで踏み込んだ取り組みをすることで、水野さん自身意識の変化はありましたか?
水野:ストレスがなくなりました。以前は「広告会社が解決できるのは話題化までか...」とモヤモヤすることが多くて。自分は広告のプロだから、広告のことだけを提案しなければという意識があったんでしょうね。でも、ちょっと視点をずらせばインナーアクティベーションだって広告です。広告の解釈を少し広げればいいだけなんです。
もう一つ意識しているのは、「画に描いた餅」にしないということ。みんなが腹落ちできるカタチにすることが大事だと思っています。経営層が描いた戦略はとても良いのに、難しすぎて現場が何をすればよいのかわからないという状況がよくあります。「現場が理解してくれない」「役員の言っているイメージがわかりにくい」⋯これで前に進まないのはすごくアンハッピーだなあと。僕は役員・本部長からミドルマネージャーまで幅広く対峙しているので、どんな階層の方が何を意識しているのかも理解できます。スキルセットもかなり幅広なので、両者の"間をつなぐ存在"になれるんじゃないかと。経営と現場、構想と実装を、企画力でつなぐ。そのために、カタチにすることにこだわっています。
戦略を構想するだけでなく、実装まで。マーケ全体を俯瞰する「一枚絵」をつくる
-大きい戦略もつくりながら現場に理解してもらうためのコミュニケーションも設計しているのですね。

水野:構想だけでなく、実装までやり抜くのが僕のスタイルです。実行プランに落とし込んでいく流れの中で、さまざまな部署の方々を巻き込み、意識を変えていく仕事だと言えます。そのために必要なのは、とにかくわかりやすくすること。広告会社のクリエイティブ職ならではのスキルだと思っています。
さきほどの小売クライアントの例でいうと、はじめはPBのリブランディング業務だけでしたが、今はマーケティング全体をサポートしています。マーケティングと言っても販売促進の話もあれば、会員獲得やアプリ内コンテンツの話もあります。それぞれ異なる分野を担当している人たちが一つの目標に向かって進むには、全体を俯瞰できる見取り図が重要だと感じています。
お客さまが何をキッカケに店舗に訪れ、どんな買い物をして、どのように会員化していくのかという流れを明確化する。それがあれば、自分がどの部分を担っているかが見えてくる。認識を揃えるために、わかりやすい「一枚絵」を創るというのはよくやる手法です。

-「一枚絵」をつくるというのは全体が見えていないとできないことですよね?
水野:正直そこが一番むずかしい(笑)。全部書くと複雑になりすぎますし、かといって粗すぎるとワークしません。細部を理解しつつ、大きく捉えることが必要になってきます。上流の戦略づくりからアプリ内コンテンツのCRMまで幅広く取り組んでいる僕だからこそできることがあります。役員の考えを現場に伝える代弁者という役割もあれば、現場がやりたいことを大きな戦略に紐づけてバックアップすることもできます。それぞれが歩み寄ることができれば、すごくハッピーですからね。
-エグゼキューション領域だけをやっていた時代と比べて、一番意識が変わったことは?
水野:昔は一発ものの企画でいかに面白いことをやるかに賭けていましたが、今はワンショットの仕事を20案件やるより、少数の企業と深く向き合う方にやりがいを感じます。クライアントに深く並走することで、真の課題解決が出来ているという実感があります。企画が面白いのは当たり前。それによってクライアントの事業をどこまで伸ばせるかが一番の喜びです。クリエイティブ局にある私のチームも"事業並走型クリエイティブチーム"というコンセプトを掲げています。

-今後どんなクライアントとどんな仕事をしていきたいですか?
水野:小売・金融・ITサービスが得意というのはありますが、変わりたいと考えている企業とご一緒したいですね。僕は構想だけでなく、それを実装し、定着させることが得意。社内にはいろんな事情があります。変わるためには理想が必要ですが、それだけではうまく行きません。事情を理解したうえで、その根っこにある課題を特定しながら、理想になるべく近づける。そこに、広告会社ならではの現場力が必ず役に立つと思います。

水野 康平
クリエイティブ局 水野チーム
チームリーダー/戦略CD
プロモーション/ダイレクトマーケティング領域を出自に、2013年よりクリエイティブ領域へ。仮説×データでクライアントの事業成長に資するチャンスを見立て、展開性あるコアアイデアに落とし込む技術を活かし、フルファネルクリエイティブからサービス開発まで領域を問わない業務に従事。2022年より"事業並走型クリエイティブチーム"のマネージャーを務めている。