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Hakuhodo コラム

【セミナーレポート】未来生活者発想で、ネイチャーポジティブのビジネス機会を探究!生物多様性と都市の未来~BiodiverCities

公開日:
2025/02/20

生活者価値に基づいた企業のSX(サステナビリティトランスフォーメーション)の実現を支援する「博報堂SXプロフェッショナルズ」(旧 博報堂SDGsプロジェクト)では、ネイチャーポジティブ(自然再興)と企業のビジネス機会創出の両立を支援するソリューション「Nature Positive Studio」を提供しています。
自然と建造物、社会システムが調和し共存するネイチャーポジティブな未来の都市「BiodiverCities(バイオダイバーシティズ:生物多様性都市)」をテーマにセミナーを開催。3人の有識者に自然資本の重要課題について講義いただきながら、「未来生活者発想」で、ネイチャーポジティブなビジネス機会について参加者のみなさんと対話を重ねました。本セミナーの模様をレポートします。

<ゲスト講師>
道家 哲平 氏
公益財団法人日本自然保護協会 保護教育部国際チームリーダー
国際自然保護連合日本委員会 副会長兼事務局長

服部 徹 氏
PwCコンサルティング合同会社 サステナビリティイニシアティブ 及び テクノロジーデジタル事業部 シニアマネージャー

滝澤 恭平 氏
株式会社ハビタ 代表取締役 ランドスケープ・プランナー、博士(工学)

<ファシリテーター>
根本 かおり
博報堂 研究デザインセンター 上席研究員/イノベーションプラニングディレクター

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今回のテーマである「BiodiverCities」は、「生物多様性」と人間活動の基盤である「都市」を掛け合わせた造語です。
ファシリテーターを務める根本は冒頭で、「本日のセミナーでは、3人の有識者の方からの『BiodiverCities』に関するインプットをベースに、環境保全の面だけではなく、『未来生活者発想』を通してどのようなビジネス機会が創発できるのかを参加者の皆さんと探究していきます。『BiodiverCities』に関する"問い"を導き、"未来の兆し"と掛け合わせて、その問いに応える事業アイデアを皆さんの領域で考えていただくきっかけにしていただければ幸いです」とあいさつしました。

■セッション1:BiodiverCities ―生物多様性都市とは何か?(公益財団法人日本自然保護協会 道家哲平氏)

「BiodiverCities」という言葉は、世界経済フォーラムが2022年1月に発表したレポート「BiodiverCities by 2030:Transforming Cities' Relationship with Nature」で初めて使われ、そこでは「建築環境、社会構造、自然資本が調和して共存するよう変化し続ける都市が目指すべき将来像」と定義されています。私たちを取り巻く自然資本は非常にネガティブな状況にあります。絶滅危惧種の状況で例えるなら健康診断で調べた10項目のうち、5項目は問題ないが3項目は入院相当、1項目は経過観察、1項目は要精密検査というのが地球の現状です。

公益財団法人日本自然保護協会 道家哲平氏

それを受け、ネイチャーネガティブをゼロではなくポジティブにする、「ネイチャーポジティブ」というキーワードが国際会議において注目され始め、同時に、これからの社会は、持続可能なインフラを持つ都市「BiodiverCities」にしていくべきと語られるようになりました。

ここで、「BiodiverCities by 2030」で示されている9つのキーメッセージについてご紹介します。

(1)「都市の時代」が到来しつつある。都市のリーダーや意思決定者は、すべての人にとって持続可能で強靭で豊かな未来を形作る上で、主導的な役割を担っている。

(2)急速な都市の拡大は、気候・自然・経済を犠牲にしてきた。もはや従来どおりのビジネスという選択肢はない。都市は自然との関係を再構築するために今行動しなければならない。

(3)生物多様性都市(BiodiverCities)は、インフラ・ガバナンス・経済・健康・ウェルビーイングに関する、以下の5つの自然に配慮した方法(下図)で都市と自然のバランスを回復することができる。

BiodiverCitiesを回復するために必要な5つの行動指針

(4)インフラへの投資を自然に根差した解決策(Nature-based Solusion:NbS)にシフトすることで、都市は生物多様性への影響を軽減しながら、気候変動に強い建設環境を構築することができる。

(5)建築環境における自然の拡大は、大きな経済的・社会的価値を生み出す。インフラ整備のためのNbSと、土地を自然に戻す介入策に5830億ドルを費やすことで、2030年までに5900万人以上の雇用を創出することができる。

(6)都市におけるネイチャーポジティブな活動の効果は、産業や地域、都市化のレベルによって異なる。

(7)都市ガバナンスを社会の仕組みの視点から取り組むように転換することは、都市が生物多様性都市というビジョンを達成するための条件のひとつである。

(8)都市発展の屋台骨として自然を回復させることは最優先事項。都市計画のプロセスに地域の生態系を再統合することは、生物多様性都市のビジョンを実現するための第二条件である。

(9)自然資本への投資の増加は、インフラに対するNbSの効果を向上させる。その条件を満たすためには、投資の意思決定に生物多様性データを活用すること、投資のための多様な価値を包括する市場を創出すること、民間資本や機関投資家のリスクを軽減し、資金を集めるための新しいモデルを推進することが必要である。

生物多様性都市においては、中央政府や地域行政はもちろん、ディベロッパー等の企業、NGO、学術研究機関など多様な人がそれぞれ役割を担っています。企業が声をあげることで行政が動き出すという側面もあるので、まずは企業が動き出すことが非常に重要だと思います。

■セッション2:BiodiverCities ―未来都市は自然と共生する(PwCコンサルティング合同会社 服部徹氏)

そもそも私たちは、自己実現の舞台として、便利な都市での暮らしを選んでいます。巨大都市では自然と切り離された人が増え続け、経済が集中してシステムも心も体も吸収されていく。言い換えれば、生物多様性は都市に望まれていません。虫や鳥など生き物が増えると、むしろ都市にとって迷惑な存在にもなりうるという見方も生まれます。つまり、都市における生物多様性は採算が取れず、むしろ負債を意味するということを、まずは正しく理解しておかなくてはなりません。

PwCコンサルティング合同会社 服部徹氏

そんな都市において生物多様性の実現に必要なのは、綿密なデザインです。意図的に実現すべきこととして生物多様性を考えなければなりません。つまり、投資や価値観にフォーカスし、これらをマーケティングしていく視点です。

例えば、国土交通省は自然環境が有する多様な機能をインフラ整備に活用する「グリーンインフラ」という考え方を導入し、自然資本を回復する都市を目指そうと整備を進めていて、すでに多くのアイデアや事例が出てきています。グリーンを増やすだけではなく、防災レジリエンスの強化、シビックプライドの醸成、地域コミュニティの形成などを行い、ヒートアイランド現象や健康価値、不動産価値などを考慮しながら生物多様性の向上にむけた取り組みを推進しています。

都市における生物多様性のメリットには、癒しや地域住民にとっての憩いの場、新しい世界との出会いといった「リゾートとしての機能」と、ヒートアイランドの緩和や洪水抑止、空気浄化といった「グリーンインフラとしての機能」の2つがあります。「すごい自然」には集客力があり、環境面のみならず、経済的にも大きなリターンが見込めるのです。

都市の自然や生物多様性は、大きな投資に値する大きな産業にすることができます。できるだけ早期に達成するためには、ゼロからアイデアを考えるのではなく、培ってきた知見やアイデア、既存のコンテンツを組み合わせて、身近なところから実践してみることがとても重要です。「自分だったら、どうすれば心が動くだろう」と考えることが、普及・啓発とブレークスルーを成功させる秘訣です。自然と共生するまちづくりについてぜひ一緒に考えていきましょう。

■セッション3:人々と共に生み出すネイチャーポジティブシティの風景(株式会社ハビタ 滝澤恭平氏)

グリーンインフラにはハード面の機能だけでなく、実はコミュニティの活性化や健康的な習慣づくり、環境意識が高まるといった多機能性があります。今日はそうした事例をご紹介します。

株式会社ハビタ 滝澤恭平氏

最初にご紹介する事例は、竹芝干潟です。浜松町駅から徒歩5分、浜離宮の傍の敷地が再開発され、ホテルや商業施設が並ぶエリアの目の前の水辺の空間をどのように活用するかという課題がありました。そこで、「人と共存する都心の干潟」という共有ビジョンを掲げ、僕たちが計画、デザイン、維持管理運営にあたりました。

最初に目指したことの1つ目は「舟運活性化」です。ここを拠点に都内各所に舟運ネットワークを広げるというもの。2つ目は「環境再生・環境教育」。干潟の再生をベースに、さまざまな人たちと干潟の環境を作っていこうというものです。そして、3つ目は「賑わい」。隣接する水辺の広場での活動や、SUPやカヌーなどのアクティビティなど、人々を集める水辺のコンセプトを作っていきました。

また、近隣の芝商業高校の生徒と生物調査をしたほか、舟運によってどういうアクティビティやネットワークが生まれるかという社会実験も実施。これらさまざまな活動を通して合意形成を図り、一緒に干潟を作っていくためのプラットフォームの整備も進めました。
竣工後、芝商業高校では干潟部の活動を開始し、都心の干潟を盛り上げてくれています。

芝商業高校の干潟部生徒がつくってくれた竹芝干潟の生物多様性を紹介する絵本

もう一つの事例は、杉並区の善福寺川の上流にある、遅野井川という源流の再生です。善福寺川は神田川の上流部分にある河川ですが、雨が降るとあっという間に増水して危険な状態になる。これを防ぎ、河川環境を再生するために、2011年に「善福蛙~善福寺川を里川にカエル会」という団体を市民や研究者の方々と発足しました。

その取り組みの中で、善福寺公園にある放置された水路を再生し、湿地が広がる原風景を取り戻そうという話があがり、地域の方と一緒に模型を作って水路再生のイメージを共有したり、子どもたちに「夢水路設計図」という絵を描いてもらって杉並区長にプレゼンしたところ、実際に杉並区が事業化してくれることになりました。2018年末に川開きを行いましたが、特にコロナ禍では地域の方々の癒しの場になったようです。

善福寺川の源流が再生された遅野井川親水施設

あらためて大切さを実感するのは、「地域の人々がこの風景を作り出した」ということ。僕たちの支援や、行政・企業からの投資はありつつも、プロジェクトを成功に導くためには、子どもたちも含めて地域の方たちにいかに参加していただくか、楽しさや遊びをどうデザインしていくかといったソフトの面がとても大事だと感じています。

■おわりに(質疑応答):早くから取り組むことで先行優位に立てる領域

3人の有識者からインプットいただいたあと、参加者のみなさんからご質問をいただきながらフリーディスカッションを行いました。

まず、「生物多様性を実現するには具体的に何から始めたらよいか教えていただきたい」という最初のご質問に対し、有識者のみなさんからは
「最初に必要なのは『認知』。ごく普通の遊びやレジャーと同じように、自然を楽しむコンテンツ、パッケージソフトウェアが出てくると、アクティビティの基盤としてビオトープなどの環境ができてくると思います」(服部さん)。
「生物多様性条約によると、自然の変容性があることで変化に強くなり、安定性をもたらし、多様性の中から私たちは多くのものを得ることができます。多様性と人との関係という文脈の中で考えることが大切です」(道家さん)。
「生物多様性都市をつくるには、生態系のバランスが保たれた拠点を作り、それを連結しネットワーク化する、という2つのベクトルで実施することが必要です」(滝澤さん)
といったアドバイスがありました。

続いて「企業として生物多様性を考えるには、どのような形で入っていくのがいいか」というご質問も寄せられました。
服部さんからは、「今イノベーター層が挑戦している理由は、それが主流化したときに優位に立てるから。マジョリティとして参入したいのか、一歩先にチャンスをつかんで先行優位に立ちたいか、社内で意見交換してみるのもいいと思います。現場で実際にやってみながらどんどん成長するボトムアップ型と、トップダウン型で社内調査し見えてきた優位性や課題などから取り組みを始める2つの方法がありますが、自然は時間がかかるので、早めに始められた方が、その分知見が早く蓄積され最終的にはお得だと思います」というお答えがありました。

博報堂 根本かおり

最後に、ファシリテーターの根本が、「生物多様性は、自分とは関係のない遠くの世界のことのように思えますが、『未来生活者発想』というフィルターで具体的に検討していくことで、自分の身近な生活や仕事の仕方の見直しにつながることもあります。そのときに、1人もしくは1社のみで検討・実行するのではなく、さまざまな立場や価値観を持つ人たちと自分事としてアイデアを出し合い、共創していくことが、ひいてはより大きな社会インパクトにつながると思います。今日のお話がみなさんの具体的な一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです」と語り、セミナーを締めくくりました。

道家 哲平 氏
公益財団法人日本自然保護協会 保護教育部国際チームリーダー / 国際自然保護連合日本委員会 副会長兼事務局長

千葉大学文学修士(哲学)修了。2004年より、事務局を務める日本自然保護協会の職員として、国際自然保護連合(IUCN)日本委員会の運営に従事。生物多様性条約COP9から、条約に関わり、以降、全COPに出席。生物多様性の世界目標に向けて、行政・企業・自治体・NGO・研究者をつなぐにじゅうまるプロジェクトを展開。世界動向の収集・分析と、分かりやすい発信に定評があり、国の各種委員会検討会の委員就任や、プレゼン・執筆も多数。

服部 徹 氏
PwCコンサルティング合同会社 サステナビリティイニシアティブ 及び テクノロジーデジタル事業部 シニアマネージャー

大手電機企業・外資系SIerのAIコンサルタント等を経て、PwCに入社。PwCコンサルティングでは、生物多様性・ネイチャーポジティブをリーダーとして担当し、生物多様性・ネイチャーポジティブ分野のビジネスコンサルティングを実施。2030年までに日本経済社会を「ネイチャーポジティブ」に移行することに、全力を注いでいる。東北大学 環境科学研究科 高度環境政策・技術マネジメント 人材養成ユニット修了(修士)、生物多様性・環境ビジネス分野での20年のNGO活動歴がある。

滝澤 恭平 氏
株式会社ハビタ 代表取締役 ランドスケープ・プランナー、博士(工学)

出版社、ランドスケープデザイン事務所に勤務後、水辺総研を共同設立、全国の水辺のまちづくりを手掛ける。九州大学大学院工学府で都市の水辺再生と地域環境スチュワードシップ研究で博士号を取得。2023年、グリーンインフラと協働デザインをテーマとした株式会社ハビタ設立。主なプロジェクトにウォーターズ竹芝、葉山町花木公園レインガーデン、杉並区遅野井川親水施設など。日本の風土の履歴を綴った『ハビタ・ランドスケープ』著者。国士舘大学非常勤講師。

根本 かおり
博報堂 研究デザインセンター 上席研究員 / 博報堂SXプロフェッショナルズ
東京工業大学 特任准教授

広告づくりの現場で多岐に渡る領域のブランディングに携わる。その後、「未来生活者発想」に軸足を置いた、事業・商品開発、組織・人材開発などの業務に従事。モビリティ、ヘルスケア、脱炭素、など、幅広い領域やテーマにおける未来像策定プロジェクトを企画・実施。
プロジェクト:未来年表作成プロジェクト(モビリティ、ヘルスケア、ライフスタイル、地域など)、未来年表コミュニティ、100年ライフデザイン、経済産業省 GXリーグ未来像策定、Nature Positive Studio

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