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「新規事業」や「プロダクト」を生み出してきたquantum、インハウスデザインスタジオ「MEDUM」によりさらなる進化へ
~世界を舞台にプロダクトイノベーションの可能性を追求していく

公開日:
2025/01/17

「プロダクトファースト」を理念の一つとし、そのアウトプットが国内外で高く評価されてきた博報堂グループのスタートアップスタジオquantum(クオンタム)から、この度デザイン領域の専門チームからなるインハウススタジオ「MEDUM(メデュウム)」がスタートしました。組織設立の目的や意図、背景にある狙いから今後の展望まで、quantum代表取締役社長 共同CEOの及部智仁と、MEDUMを率いるデザイナー・門田慎太郎に聞きました。

高い国際的評価を獲得し続けるquantumのアウトプット

―まずは、quantum(クオンタム)がどのような会社なのかから教えてください。

及部
quantumはもともと、TBWA\HAKUHODOで、オープンイノベーションを推進する社内組織として誕生しました。オープンイノベーションを形にするためにはさまざまなスタートアップとのコラボレーションが欠かせません。そこで、新規事業やプロダクトを次々と生み出していくスタートアップスタジオという形態で組成し、その後2016年に博報堂グループ傘下の企業体として独立したという経緯です。

3Dプリンターやレーザーカッターなどを揃えて社内でプロトタイピングできる環境も整え、博報堂のクリエイターと外部のものづくりに携わる人たちがコラボし、共創できるカルチャーも醸成。これまで100社を超える企業、大学とインキュベーションを実践してきました。

―これまでのquantumでの新規事業開発の具体例を教えてください。

及部
年間40件ほどのプロジェクトがつねに動いており、多くが、ソフトとハードを融合した大手企業の新規事業支援やスタートアップへのハンズオン支援です。

たとえば2019年には、広島を拠点に医療・福祉機器のほかスポーツ用品などを展開するメーカーのモルテン社と車いす「Wheeliy(ウィーリィ)」を共同開発しました。まず、医療・福祉機器での事業機会の探索や具体的にどういった製品で参入すべきかなどを一緒に検討しました。そしてマーケットとしても有望な車いすに着目し、車いすユーザーのインサイトを測ったところ、東京や大阪などの大都市は地下鉄やバスなど交通網が複雑に分断されていて、係員などの介助なしでは自由に動き回ることができないことが課題だと判明。そこで介助者にとっても扱いやすく、電動アシスト機能もあり、都会でもシームレスに移動しやすい車いすというコンセプトを設定しました。

モルテン社「Wheeliy」

デザインを手掛けたのが、門田さんです。当時は別会社にいましたが、quantumにジョインしていただき、量産設計を含めたデザインを担当してもらいました。おかげさまで「Wheeliy(ウィーリィ)」は2020年度のグッドデザイン賞のほか、iFデザインアワード、レッド・ドット・デザイン賞を受賞することができました。

―2023年には、世界最大規模の家具見本市「ミラノサローネ国際家具見本市」にもプロダクトを出展されました。

ミラノサローネ 出展ブースの様子

門田
quantumは受託デザイン案件が多い一方で、社内R&Dも自主的に行っています。メンバー同士でアイデア出しをしたところ、照明に関するものが多かったため、予算をつけてもらい本格的な照明プロダクトのプロトタイプをつくってみることにしました。それだけだと勿体ないので、量産化も見据えたうえで、「5 Lights(ファイブライツ)」というプロダクト展示会としてミラノでお披露目しようということになったんです。それがきっかけとなり、イタリアデザインを代表する家庭用品メーカーであるALESSI社とのコラボが生まれたり、デンマークや中国の企業とも協業が進むなど、グローバルなビジネス機会を得ることにつながりました。

ALESSI「Tsumiki」

―ミラノサローネでは主にどういった点が評価されたのでしょうか。

門田
社内でプロトタイピングできる強みがしっかりと活かされている点だと思います。プロダクトデザインの展示といっても、コンセプチュアルなデザインをパソコン上できれいに描き、それを貼っただけの展示もあれば、僕らのように実際に触れて機能するプロトタイプに落とし込んだものまであって、当然メーカーの食いつきはまったく変わってきます。とくに「5 Lights」は量産の設計の仕様、コスト構造、部材が調達しやすいかなどサプライチェーンまでも含めて考えており、プロトタイプとしても非常に完成度が高かったことが、商談の早さにもつながったと思います。

5 Lights制作の過程

―quantumにはほかにどんなクリエイティブ事例がありますか。

及部
廃棄されるホタテの貝殻をアップサイクルしてつくったヘルメット「HOTAMET / ホタメット」があります。TBWA\HAKUHODOがコンセプトとデザインラフを作成し、大阪のプラスチックメーカーである甲子化学工業さんへ自主提案したことから始まったプロジェクトです。quantumはプロダクトデザインを担当しました。2023年カンヌ広告祭と、欧州で最も権威あるiF DESIGN AWARD 2024でいずれも金賞を受賞するなど、話題を呼びました。

甲子化学工業「HOTAMET」

そのほか、2019年に同じくTBWA\HAKUHODOと共同で手掛けたTHE TOKYO TOILETもあります。渋谷区内の17カ所に、誰もが快適に利用できるデザイントイレを作るプロジェクトで、quantumは七号通り公園トイレ(Hi Toilet)に外観デザインで参加しました。手を触れずに音声認識でドアの開閉や便器操作ができるというコンセプトで、コロナ前から企画が進んでいましたが、結果的にコロナ禍のニーズにも対応したモデルとなり、iF DESIGN AWARDを始め高く評価されました。

「媒介」として、生活者にとって最適なデザインを追求していく

―そんなquantumで、2024年11月、インハウスデザインスタジオ「MEDUM」を立ち上げることになりました。何がきっかけでしたか。

及部
quantumはベンチャーを連続的に産んでいくスタートアップスタジオという業態で、新規事業というインキュベーション業界をけん引し、新しい産業を生み出す存在になることが大きな目的です。一方で、スタートアップに選んでもらったり、大企業の新規事業チームにquantumの魅力をもっと理解してもらうためには、デザインとエンジニアリングをより尖らせる必要があると考えていました。

また、先述の車いす「Wheeliy」は、ヨーロッパ最大級のコンテンポラリーアート美術館である、ドイツのピナコテーク・デア・モデルネにパーマネントコレクションとして収蔵されているんです。日本人でも稀な、それほど高いデザイン技術を持つデザイナーを抱えている以上、彼らを今よりもっと輝かせる方法を見つけなければならないとも考えていました。

こうしてはっきりと「デザインスタジオ」と呼べるものを別途持つことによって、自分たちの可能性を拡張しやすくするだけでなく、ベンチャーキャピタルや他の新規事業を支援する会社と比べた際のquantumのバリューがもっと際立つだろうと考えました。世界中を探しても、こんなにユニークなデザイン組織を持つスタートアップスタジオはほかにありません。そこをグローバルで尖らせていくことができれば、競争優位になるだろうと考えました。

―なるほど。ちなみにMEDUMの名前の由来は何ですか。

門田
英語で「媒介」を表す「Media」の単数形である「Medium」から名付けました。僕が考えるデザイナーの役割は、さまざまな技術や素材、情報、人工物とユーザーである生活者をつなぐ媒介になることです。媒介を通すことで、生活者にとって使いやすいものになったり、魅力的なものが生まれる。その変換を担う役割でいたいと考えています。

―インハウスデザインスタジオとして独立したことで、より強みになったことや、取り組んでいきたい予定はありますか。

及部
グローバルでデザインに関連するアワードを複数受賞したこともあって、うちで働きたいという声が特にヨーロッパから聞こえてくるようになりました。今後はヨーロッパにも拠点を置くことも検討し、日本のデザインの発信をしていけたらと考えています。MEDUMのように新規事業×デザインの視点を備えたユニットはなかなかないと思っています。

門田
デザイン組織として独立したことで、世の中に対してデザインが自分たちの強みなのだとしっかりとコミュニケーションがしやすくなったのは大きいです。また、やはりヨーロッパはデザインに対する感度やリスペクトが高く、理解も深い。実際にALESSI社のエンジニアやマーケッターは、デザインについても一を聞いて十を知るようなところがあり、話が早く、打ち合わせも数十分で終わることがよくあります。言葉を尽くさずともセンスで通じるということは、デザイナーとしてとても気持ちがいいものですし、そういったことを海外ではより求めていきたいという気持ちがあります。

―MEDUMがものづくりにおいて大切にしていくことは何でしょうか。

門田
私たちが大切にしているのは、必要以上に「自分の色を出さない」ことでしょうか。そこにさまざまな技術があり、生活者がいるとして、僕らは媒介として、生活者と技術の境界にある「型」みたいなものをデザインしているという意識でいます。生活者をしっかりと理解すれば、収まる「型」は自然と見えてくるはず。より感覚的な話になりますが、デザインにあたっては、何か新しいデザインを発明しようとするのではなく、自然につながる関係性を発見しようとしている。そういう感覚を大切にしています。

また、人新世という言葉が今グローバルで叫ばれていますが、モノ作りにおいても私たちデザイナーの判断には、環境に対して大きな責任があると考えています。私たちのデザインが製造から廃棄までのプロダクトライフサイクルを決定する一端を担う訳ですから、環境負荷ができるだけ少ない、長く使い続けてもらえるようなデザインを通して、持続可能な社会の実現に貢献できればと考えています。

ビジョンとプロダクトの両方をプロトタイピングしていく

―改めて今後の展望を教えていただけますか。

及部
社会課題解決につながる事業―quantumの言葉でいう、社会のディープイシュー―を解いていくような事業をぜひつくっていけたらと思ってます。私は東京科学大学(旧東京工業大学)の特任教授として、4年ほど前から大学発ディープテックのスタートアップの創業支援をしています。どれだけ最先端の技術があっても、研究者1人では、その技術を社会実装に結びつけるまでのデザインを描くことは困難です。そのときのビジョンと、そして実際のプロダクトの両方を、デザインの力でプロトタイピングしていけたらと思います。

実際にquantumは、能登半島の地震被災地を含む断水状況下などで、社会的な水問題の解決に取り組む東京大学発のWOTAという水の再生ベンチャーを出資だけでなく、デザインやエンジニアリングの面でも創業時から支援しています。問題を抱える社会システムをよりよい方向へ移行できるよう、デザインという枠に閉じずに、システミックデザインやトランジションデザインといったアプローチを用いながら、様々なステークホルダーを巻き込んで社会を変革するチームをつくっていけたらと思います。

門田
大学や企業が有するディープテックのような技術は、どうデザインするかで、どんなプロダクトになるかが決まっていきます。技術そのものはまだまだ柔らかいものだったりするので、初めてそれに形を与えるということは大きな責任もありますが、新しい技術を使ったプロダクトの原型になるようなものが生涯に1つでもつくれたら嬉しいです

及部
quantumの創業支援先の一つに東京科学大学(旧東京工業大学)の山本貴富喜先生がいらっしゃいます。山本先生が進めているのは、様々な環境や体内にどんな微生物がいるかをその場で検証できる微生物AIセンサーの事業化で、実現すれば空港や食品工場、医療現場など世界中の様々な現場で活用が期待されるものです。実はつい先日、門田のチームのデザイナーやエンジニアのメンバーが、その微生物AIセンサー技術をユーザーが使用できるようプロトタイピングし、山本先生と共著で論文を発表したところ、電気学会等が主催する国内最大のMEMS・センサ関連学会で最優秀技術論文賞に選ばれるという快挙を成し遂げました。

デバイスの試作品

ある意味、技術を原理から理解し、機構を考え、原型をつくっていくというプロトタイピング力のレベルの高さが証明されたと思うと、非常に嬉しいですね。

―最後に、一言ずつお願いします。

門田
私たちには、ソフトウェアでもハードウェアでもうまくデザインする力があると自負しています。会社の中や組織の中にアイデアがあるものの、それをどう形にして世の中に出していけばいいのかわからないという方は、ぜひ気軽に声をかけていただけたらと思います。

及部
我々はコンサルタントではなく、ベンチャーをつくる組織ですから、座組だけで勝負するのではなく、あくまでもサービスやプロダクトというモノで勝負したいと思っています。プロダクトは言語を超えますから、まずは素晴らしいものを生み出し、グローバルに展開していくこと。デザインだけでなく、技術開発にも投資をしていて、quantumのノウハウを注ぎ込んだインキュベーションテクノロジーのAI開発を続けています。今後は大手企業やスタートアップだけでなく、国内のゲームチェンジャーと言われるようなグローバルニッチで偉大な中堅企業をうまくサポートしていけたらと思っています。新規事業とイノベーションをどんどん仕掛けていき、新しい日本経済のモメンタムをつくっていけたら嬉しいですね。

―お二人ともありがとうございました!

及部 智仁
quantum代表取締役社長 共同CEO
東京科学大学 イノベーションデザイン機構 特任教授

門田 慎太郎
quantum Chief Design Officer/Head of MEDUM

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