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Hakuhodo コラム

広告領域から、クリエイティブはいかに"越境"していくか? 若手クリエイターの模索と実践【アドテック東京2023レポート】

公開日:
2024/01/17

表現の場だけでなく、企画や商品開発、事業そのものにもクリエイティビティは欠かせません。そこに今、コピーやCMなどで培われてきた広告クリエイターの力が発揮されつつあります。活動する領域をみずから広げ、従来の広告以外でさまざまな企画を展開するクリエイターとして、The Breakthrough Company GOの小林大地氏、CHOCOLATEの市川晴華氏、dentsu zeroの鈴木健太氏、そして博報堂の小暮菜月が集結。NOT A HOTELの西丸亮氏をモデレーターに、クリエイティブの"越境"についてディスカッションしました。

本稿では2023年10月19日、20日に開催されたアドテック東京2023の展示会場内のステージで行われたセッション「クリエイティブ越境論 -領域に縛られない、クリエイティブ業界の次の主人公たち-」の模様をお伝えします。

モデレーター
西丸 亮氏
NOT A HOTEL株式会社
PR / HR

小林 大地氏
The Breakthrough Company GO
Creative Director / Planner

市川 晴華氏
株式会社チョコレイト
プランナー / クリエイティブディレクター

鈴木 健太氏
dentsu zero
Communication Planner / Film Director

小暮 菜月
株式会社博報堂/CREATIVE TABLE 最高/SIX
チーフアートディレクター

広告領域からのさまざまな"越境"事例

西丸
モデレーターを務めます、NOT A HOTELの西丸です。今日は広告領域から"越境"しつつあるクリエイターの皆さんと、事業会社の視点も交えてディスカッションできればと思います。
まず自己紹介を兼ねて、皆さんの「クリエイティブの領域を越境した事例」と、何から何へ越境したかを教えてもらえますか?

小林
GOの小林です。PR会社を経て2019年からGOに参画し、SKE48のプロモーションや経済産業省の介護に関するプロジェクト、またヘラルボニーのブランドアクションの開発支援などを担当しています。
越境した事例として、SKE48の「#SKE48全額返金保証公演」を挙げました。もともとは話題化を目的にした広告のご相談でしたが、そもそも料金システムから変えたらどうかと考えて、満足いただけなかった場合の返金を保証する公演を企画しました。なので「広告企画から公演開発へ」の越境になりますね。
とはいえ、自分自身は「越境してやる!」と意気込んで仕事を広げてきた感覚はまったくなく、むしろたくさんの大先輩方が活躍している広告領域で戦うのは難しいと思って外に出ていった形です。

市川
CHOCOLATEの市川です。読売広告社のパートナースタッフも兼任しています。
私はどちらかというと広告の仕事がメインで、さまざまな企業のテレビCMやキャンペーン企画などを手掛けてきました。
越境という点で挙げたのは「広告企画からネットの遊びへ」と広げた、サントリー ペプシのデジタルサンプリング「#本田とじゃんけん」です。広告キャラクターの本田圭佑さんとじゃんけんをして、勝ったら新商品の無料クーポンがもらえるのですが、本田さんのいろいろなセリフや背景が白だったこともあって、一般の方の二次創作がたくさん生まれました。
それを学びに、次の企画では「どうしたらネットユーザーに遊んでもらえるか?」という観点を掘り下げていきました。

鈴木
dentsu zeroに所属している鈴木です。企業のブランド広告から新規事業の立案、スタートアップのクリエーティブ・ディレクション、またライフワークとしてミュージックビデオや映画の監督をしています。
僕が持ってきたのは、コロナ禍にはじめた「劇団ノーミーツ」の事例。今振り返ると、「一夜のバズから新しい表現文化/興行ビジネスへの拡張」が実現できたと考えています。
舞台での表現活動が「三密」として妨げられ、通常の演劇公演が難しくなったことから、数名のメンバーがTwitterにZoom演劇を発信し始めたのが発端でした。が、その一夜のバズコンテンツだけでは役者やクリエイターは食っていけません。どう持続させるか、どう拡張していくか、という課題に本質的に取り組んだ結果、20000人もの観客を呼び込んだ有料長編公演やコラボレーション、完全自前のプラットフォーム『ZA』の開発などにつながりました。
今日のテーマは「クリエーティブの越境」ですが、もともとクリエーティビティそのものってすべての企業活動や人間生活に活かせるものだと思っています。広告クリエーティブはあくまでそのいちジャンルで、もちろんそこで培われた優れた技術はどんどん吸収して活用すべきですが、あんまりこだわりすぎないほうがいいのかなとも思ったりします。

小暮
博報堂の小暮です。アートディレクターとして、幅広い企業の広告グラフィックなどに携わりながら、デザイン領域の拡大や理解促進を目指しています。
私からは、「アートディレクションからセンサリーディレクションへ」越境したかなと思う、いちばん最近の事例を紹介します。プラザスタイル カンパニーの社員の方々と一緒に、PLAZAの店頭に並ぶ生理用ナプキン「The Week」を開発しました。PLAZAの棚にどんなふうに並ぶといいか、どんな気持ちで持ち帰ってもらえるといいかなど、表面的なデザインというよりデザインを通した体験や行動を考えながらつくっていきました。

複数の調査から、パッケージにはハートのモチーフやピンクの色味を選択。発売後、ネガティブな意見はなかったという

企業側とどのように協働するか

西丸
パッと見た印象ですが、お菓子やキャンディーのような印象ですね。越境のキーワードとして"センサリー"、感覚的なディレクションと挙げられたのは、どういう意図があるのでしょうか?

小暮
デザインやアートというと、目に見えるものがすべてと思われがちですが、本当はほかにも耳で聞こえるものや触ってみて感じるもの、においをかいで思い起こされるものなど、五感のすべてが対象になると思っています。今後はそれらを包括して考えていくのが重要だろうという意図で、センサリーという言葉を挙げました。

市川
この商品、PLAZAの店頭で実際に見たんです。棚の真ん中でまさに売り場の主役になっていて、10代の子が「かわいい!」と手に取っていました。

小暮
見てくださったんですね、うれしいです。PLAZAの社員さんやお店の方々がとても熱心に取り組んでくださって、店頭もPLAZAならではのセンスが光るものになったと思います。

西丸
企業と深く協働しないとできないですよね。その巻き込み方や説得の仕方にも、努力が要るのではないかと思います。
小林さんのSKE48の事例も、最初は通常の広告の相談だったとのことでしたが、アウトプットが変わるまでにどんな経緯があったのですか?

小林
1回目のプレゼンは、お題どおりの広告企画を提案したのですが、実はあまり手応えがなかったんです。「#SKE48全額返金保証公演」は、話題化させたいというお題に答えるためのアイデアとして、2回目のプレゼンで提案したところ、ずっといい反応をいただけました。クライアントにとっては予想外の提案だったとは思いますが、話題化したいという最終目的には沿っていたので、会話しながら「たとえばこんな案もありますが...」とお出ししました。
オリエンテーションの中で言及されている「手段(TVCM/新聞広告など)」にももちろん真摯に向き合うべきですが、思考をそれだけに狭めないことも大事なポイントだと思います。

広告クリエイターの機能は「圧縮」と「飛躍」

西丸
SKE48の企画も一例ですが、広告クリエイターの広告領域以外での活かし方について、少しお話しできればと思います。

市川
極めて難しい局面でも、試行錯誤して突破するところが生かせるのではないかと思います。私たち広告業界の仕事は、最終的なアウトプットだけを見ていただくことが多いですが、そこまでの過程でかなり無理なことも起きています。それらを、プロデューサーや営業、もちろんクリエイターも知恵を絞って乗り切ってきているので、交渉や説得の技の英知はまったく違う分野にも生きるだろうなと。

西丸
社内でも、まったく関係のない会議体に入ってほしいといった要望があったりしますか?

市川
あります。どんなふうに伝えたら相手に納得してもらえるか、といったことを考えるシーンなどでも力になれると思います。

鈴木
広告領域以外、というと、もともとコピーやアートディレクションには情報を「圧縮」して世の中に「飛躍」させる機能があるのでは。たくさんの言いたい情報を圧縮して、伝えたい人にしっかり伝わるように、思いもよらない「飛躍」をさせる。クリエイターにはそんなことを期待してもらえたらいいのかなと思います。広告クリエイターはあくまで、企業にとっては「外野」の人だと思うのですが、その「外野」リティがむしろ強みだと思う。この技術は、事業会社やスタートアップなど広告業界外からの視点で捉えると、"広告クリエイター"という職種特有のものだと思います。

小暮
そうですよね。ひとことでいうと、コミュニケーションの技術が生きるのかな、と。私は「広く告げる」という広告自体がとても好きですが、広告クリエイターという職名は、できることを狭める名称のように感じることもあります。
新しい商品やサービス、あるいはビジネスができるとき、私はその人格を新しくつくるつもりで臨んでいます。どういう人格で、どんな声や服装で世の中に見せていけばいいのかという、外に出ていく部分のコミュニケーションを全部考えられるのが、広告クリエイターだと考えています。

これからのクリエイターに必要な倫理観

西丸
では、これからのクリエイターにはどのような視点が必要だと思いますか? 先ほど小林さんから、お題の中だけで考えないという話が上がりましたが、そもそもご自身の活動領域をどう捉えているかによりますよね。

小林
そうですね。皆、たとえば「この条件ならCMだよね」とか「これだと絶対ソーシャルだよね」など、固定概念のような"枠"を持ってしまっているのだろうと思います。それを外すことも、企画の初期段階のミーティングで視野に入れて、ディスカッションできればいいのでは。

鈴木
固定概念を外すことを意識しないと、もはや広がらないのかもしれないですね。いままではみんなが広く見る広告枠を売り買いするビジネスで、そこに何を載せるかというシンプルな勝負でしたが、それだけでは全然効かないし広がらない時代。ニーズも多様になっている。そのとき、打ち手からちゃんとディスカッションできるといいですよね。「オリエンにあるのでCM考えてきましたけど、本当はこれやった方がいいかもです。」っていう無邪気な提案が増えると、企業が社会に対して与えられる価値やコミュニケーションもどんどん若返っていくのかなと思います。

西丸
熟考した結果、広告ではなく、たとえばプロダクトをつくるというソリューションになるかもしれないし。

市川
そうですよね。企画側の皆が「だいたいこんな感じだよね」とうなずくような案に着地してしまったら、もう終わりかなと。既存のフォーマットを疑うことが大事だと思っています。
また、私は企業のSNS担当をすることも多いのですが、流行り廃りが激しいので常にウォッチしながらも、一定のトーンで続けるようにしています。タイムラインって一過性なので、だからこそ数年続けるつもりがないとブランドはつくれないと思います。

鈴木
同感です。単発のバズコンテンツを何本重ねるだけではブランドとして蓄積されなくて、大事なのは、それが対象者や受け手にとってオーセンティックであるかどうか。「本物だ」「わかる」と感じられるかどうかだと思います。その点は、いま広告業界に圧倒的に欠如している。「広がったからいいよね」っていう判断軸が強すぎるのも、ブランドにとっては短絡的で危険だと思っています。
また、これはクリエイターの働き方という観点ですが、自社のチームの枠組みに留まらず、いろいろな線引きを越境しておもしろい人と組んでいけるとクリエーティブのアウトプットもどんどん増えていきそうです。CHOCOLATEのみんなと仕事することもあったり、そういう越境が増えていくと楽しそう。

小暮
そうやってクリエイターがより立っていくと、今後は個人の倫理観も大事になっていきますね。今、ブランドや企業は「何がイケていて、何をダサいと思うか」の判断が常に求められていますが、クリエイターにも求められるようになるだろうなと。ただ、世の中が何がダサいと受け止めるかは常に刷新されるので、それを踏まえながら考え続けることが欠かせないと思います。

市川
企業のお題に応えるのが仕事なのは大前提ですが、自分の思いがアウトプットに反映されるのは、私は健康的なことだと思います。なので小暮さんがおっしゃるように、自分の考えをいつも整理しておくことが大事ですね。

西丸
事業会社としては、倫理という言葉に敏感です。事業や組織のフェーズによって、自社の軸がどこにあるのか、どう持つべきかは変わるので、外部からの見方は参考になりますね。
皆さん、言葉は違えど、今とこれからにおいて重視されていることは共通しているように感じました。事業会社も含めて、柔軟に議論したり組めたりできたらいいですね。今日はありがとうございました!

モデレーター
西丸 亮
NOT A HOTEL株式会社
PR / HR

中央大学大学院公共政策研究科修了。スマイルズ(スープストックトーキョー)、CINRAを経てメルカリへ入社。Employer Branding Teamのマネージャーを務める。2023年6月よりNOT A HOTELへ参画。

小林 大地
The Breakthrough Company GO
Creative Director / Planner

PR会社ベクトルを経て、2019年GOにジョイン。企業の価値規定から、ブランドアクションの開発まで。省庁のプロジェクトデザインから、アイドルグループの新公演プロモーションまで。幅広くアイデア開発を行う。主な仕事に、経済産業省「OPEN CARE PROJECT」、朝日新聞 新聞広告の日プロジェクト「#2022年を愛の年に」、SKE48「#SKE48全額返金保証公演」、ヘラルボニー「#CAREVOTE」など。「2023 63rd ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」PR部門審査員。ゲラゲラ笑えるバラエティ番組が好き。

市川 晴華
株式会社チョコレイト
プランナー / クリエイティブディレクター

1990年生まれ。SNSを主軸に企画しているが、TVや新聞などのマス広告も意外とやっている。2022年よりCHOCOLATEに所属。読売広告社にもパートナースタッフとして所属。JPM The Planner2022、ADFEST2020GOLD、ギャラクシー賞選奨、OCC賞、FCC賞、HCC賞など。

鈴木 健太
dentsu zero
Communication Planner / Film Director

1996年生まれ。10代の頃から映像を作りはじめる。多摩美術大学中退後、電通入社。本田技研工業や大塚製薬ポカリスエット、ラフォーレ原宿、NTT docomo「ahamo」など企業/ブランドの広告コミュニケーションから、羊文学、imase、KIRINJIなどミュージックビデオの監督、「A_o」「Mirage Collective」「劇団ノーミーツ」の企画プロデュースなど多岐にわたる。カンヌライオンズ、D&AD YELLOW PENCIL、文化庁メディア芸術祭 優秀賞など国内外で受賞。22年4月、映画のスタートアップ「NOTHING NEW」を立ち上げ、下北沢にVHS喫茶「TAN PEN TON」をオープン。また、深夜0時にしか現れない映画プラットフォーム「NOTHING NEW」ベータ版を2023年12月にローンチし、新鋭監督による4作のホラー映画をプロデュース。

小暮 菜月
株式会社博報堂/CREATIVE TABLE 最高/SIX
チーフアートディレクター

1989年(平成元年)生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒。2012年に博報堂に入社。デザインの領域拡大・理解促進を目指し、従来の広告領域に捉われない活動を目指す。
ADC賞入賞、NYADC、ACC賞、グッドデザイン賞ベスト100、CODEアワード、朝日/毎日広告賞入賞、その他複数受賞。

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