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Hakuhodo コラム

ブランド・トランスフォーメーション(BX)の起点となる、
「パーパス」の役割と作り方

公開日:
2024/01/12

博報堂グループが提唱している「ブランド・トランスフォーメーション(BX)」。「ブランド」の創造を通じた事業変革・事業成長を目指すBXの中で、重要な意味を持ってくるのが「パーパス」です。今、多くの企業が「パーパス」経営に取り組んでいますが、そもそも「パーパス」とは何か? 「パーパス」策定と定着のためには、どんな視点や取り組みが必要なのか? さまざまな企業の「パーパス」プロジェクトに関わってきた、博報堂コンサルティング代表の牧口松二と、博報堂ブランド・イノベーションデザイン局長の竹内慶に、事業変革を促進していくための「パーパス」の意義と策定方法について聞きました。

博報堂コンサルティング 代表取締役
牧口 松二

博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局長
竹内 慶

ブランド視点で事業変革を目指すのが、ブランド・トランスフォーメーション(BX)。

----本日は、博報堂グループが提唱している「ブランド・トランスフォーメーション(以下、BX)」の中で重要な意味を持つ「パーパス」について、お話を伺いたいと思います。まず、BXですが、その意味と、なぜ今BXが必要なのか、あらためてご説明いただけますか?

竹内:私たちはBXを、「生活者との共創による事業変革・事業成長」と定義しています。いくつかポイントがあるのですが、まず事業そのもの、つまり経営の根っこのことを指しているということ。そしてもう一つが、デジタル化による生活者と企業の関係の変化を背景にしているということです。もう少し詳しく説明すると、今、デジタル化によって、人とモノが常に繋がっている常時接続の社会が生まれています。これを博報堂グループでは、「生活者インターフェース市場」と呼んでいるのですが、もはや従来のように、企業の側にモノや情報があって生活者がそれを求めるという、一方向的なウォーターフォール型の関係ではなくて、生活者も企業と同等に情報を持つようになっています。つまり、企業が優位に立って、生活者の限られた時間を「自社のブランドのために使ってくれ」ということでは通用しなくなってきているのです。そういう中で本当に生活者から選ばれて支持されるブランドになるためには、生活者と一緒になって事業を見直したり、成長させていくことが必要になるわけです。

牧口:DXを、企業としてそれまで歩んできたカルチャーや事業と、手段としてのデジタルテクノロジーを掛け合わせたものととらえるなら、BXはブランドを中心に置いた事業成長・事業変革、それも商品やサービスではなく、生活者価値を中心に置いた変革の思想です。
私たち博報堂グループは、あえてBXという概念を提唱することで、DXの先の事業変革の必要性を説くとともに、ブランド視点でのさまざまな見直しや取り組みを、企業と一緒になって考えていきたいと思っています。

竹内:BXを円型のフレームワークで表現したのがこの図ですが、上半分は「パーパス」「ビジネスプロセス」「組織・人材」といった企業の内部活動に該当する要素になり、下半分は「コミュニティ」「コミュニケーション」「商品・サービス」など、生活者体験に関わるブランドのフロントエンドの要素になります。

BXは、この6つの要素のどこから着手してもいいのですが、やはり「パーパス」はその中心的な要素になるものだと思います。

牧口:パーパスと事業をしっかり連携させ、パーパスを起点としてビジネスモデルが変わり、組織や必要とされる人材が変わり、その結果としてブランドそのものが変わっていく、それがBXの理想の流れです。

「パーパス」は企業価値をドライブする

----BXの起点として「パーパス」が重要というお話ですが、この数年、「パーパス」が世の中のトレンドのようになっている気がします。そもそも「パーパス」経営が注目され始めたのは、どんな背景からなのでしょうか?

牧口:まず、ビジネスや経営の見直しという世界的な潮流があります。とくに、世界最大の資産管理会社であるブラックロック社のCEOの書簡が大きな分岐点と言われていますが、アメリカの経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル(BRT)」が2019年に発表した声明は、パーパス主導による経営の必要性を増進させました。
国内では、一橋大学ビジネススクールの名和高司教授が「志本主義経営」と名付けた「パーパス経営論」が有名です。そこでは、「パーパス=志の実現を目的として事業を進め、プロフィットという結果を生み続け、キャピタル=資本を増幅させる。この仕組みが好循環で持続されることが重要」と説かれています。
実は、「パーパス」という概念が注目される以前にも、ビジョナリーカンパニーやCSV経営といった考え方がありましたが、本来的には一緒だと思います。要は、企業の現在価値を将来的にも伸ばしていくこと、しかもその事業が社会的にも意義があること。それを追求していくことが経営者の責任ということだと思います。

竹内:少し付け加えさせていただくと、企業価値、特に将来価値を上げるとか、その事業が一過性のものではなく継続するものであるということをしっかりと証明しなければいけないときに、自社の利益だけを追求するだけではもう許容されないという時代背景もあると思います。1社だけではどうにもならない社会課題や、地球規模のいろんな課題が顕在化している中で、社会的な意義や社会的責務を果たさない限り、企業の将来価値は上がらないという状況になっているということだと思います。
もう一方で、従業員、とくに若い世代を中心に、その企業で働く意味、企業が社会的に存在する意義を重視するようになっていることも見落とせません。その企業活動への共感が生まれないと離職者が出てきて、企業の存続にも影響するようになり、その意味でも「パーパス」は大きな意味を持ってくるのではないでしょうか。

「パーパス」策定と定着の成功ポイントとは?

----「パーパス」策定は難しいと同時に、奥が深い作業だと思いますが、策定を成功に導くためのポイントやヒント、あるいは注意しなければならないことがあったら教えていただけますか?

牧口:そうですね。時々、「パーパスを浸透させるにはどうしたらいいか」というご相談を受けることがあるのですが、そもそも、「浸透」という言葉自体、「パーパス」とはそりが合わないと思います。つまり、経営層が決めたものをトップダウンで社員に浸透させるという発想では、「パーパス」はうまくいきません。

竹内:「パーパス」は、企業の社会的な存在意義や役割を定義するものですが、そこには「実現したい未来の社会の姿」と「その中で果たす自社の役割」ということも言語化する必要があります。それゆえ、誰かが決めて一方的にやれ!という類のものではなくて、やはり社員みんなの意識や自発的行動の結果、実現するものなのです。ですから、パーパス策定委員会のような上層部だけの会議体や、経営者がコンサルタントと一緒に作って、"皆さん明日からこのパーパスでやってください"というやり方ではなかなかうまくいきません。もちろん実際にやるとなると難しいのですが、できるだけ全社の縮図となるような座組で、そこに参加している全員と対話を重ねたり、自分たちがその企業で働くモチベーションを議論したり、自社の商品やサービスが社会生活にどのような意味や価値があるのかについて、意見を交わすことがとても大事なのです。

----大企業であればあるほど、あらゆる社員をそのプロセスに参加させるというハードルは高くなるような気がするのですが、どのような工夫が必要でしょうか?

竹内:ある企業のパーパス策定に関わらせていただいた経験からお話すると、その企業の相似形となるように、様々な部門から社員を集めてクロスファンクションのチームを作り、会話を重ねるというのはパーパス策定の基本だと思います。さらにそこにライブ配信やイベントの開催など、全社員向けのエンターテインメント性を加味することで、策定のプロセスに双方向性が生まれて、効果があると思います。

牧口:策定のプロセスを"見える化する"ことは、すごく大事だと思いますね。我々の仕事で多いのは、組織のたてつけが変わるM&Aや、経営統合など、今まで別々の組織だったところが一緒になる時に、社名の話も含めて、パーパス策定のご相談を受けることがあります。そのようなケースこそ、様々なグループ企業が一緒に議論し合う場を作ることはとても重要で、共通の目標を確認するプロセスにもなると思います。

----パーパス策定のための時間はどれぐらいかけるといいものでしょうか?

竹内:正解はないと思いますが、通常は策定に半年から一年、実体化のために2~3年といったところでしょうか。とにかく、策定のプロセスとその中身をどれだけリッチにしていくかということを考えたほうがいいと思います。パーパスを作って社内に定着させることは、企業にとって、ある意味、終わりのない旅のようなものだと思うので、策定したあとも社内で議論する場は継続したほうがいいですね。

----パーパスを言語化する上で、どのような表現を目指したらいいのでしょうか?

牧口:パーパスはよく企業にとっての「北極星」とたとえられますが、抽象的なものでもダメですし、逆に、具体的で陳腐化しやすいものでもダメなので、そのバランスをどうとるかというのは難しい判断かもしれません。

竹内:抽象的な表現の一歩手前というか、その企業ならではの強みやDNAといった特徴が、その企業の独自性や未来感と結びついたものでないといけないと思います。つまり、現在価値だけでなく、将来も含めて、その企業の存在がどんな未来の社会を目指して、どんな役割を果たすのかということを考えて言語化することがポイントになると思います。

「パーパス」を"絵に描いた餅"にしないために

----パーパスを実体化する上で、他に留意すべきポイントはありますか?

竹内:パーパスを"絵に描いた餅"にせずに、事業やサービスに実体化することはもちろんですが、パーパスに共感する社内外の仲間が集うコミュニティを作ることも大事ではないでしょうか。また、短期、中期、長期というタームで進捗を図っていくためのシナリオと、KPIのような定量的な数値目標を作ることはとても大事になってくると思います。具体的に言うと、パーパスに基づいてトランスフォームすべきことや領域、事業や商品、組織などを決めて、どれぐらいの期間でどこまで実現するのかというシナリオを作り、それを達成するための指標を作るイメージです。

牧口: やはり、パーパスは策定した後のプロセスが大事で、とくにそれぞれの業務プロセスに落とし込んでいく、いわゆるブレークダウンが重要な気がします。どこまでいけば成功と言えるのか、判断基準が曖昧なままだと、せっかくパーパスを作っても、最終的な目標である事業変革は成しえないのではないでしょうか。ただし、その目標を数字で示す上で留意したいのは、いわゆる財務指標ではなく、どちらかというと非財務指標と言われていることを数値化することです。そうすれば、社内のそれぞれの部門の目標設定に因数分解できて、パーパス実現に向けた取り組みが定量化して見える化できると思います。もっと言うと、従業員にとっては評価の基準にもなるし、アナリストに向けては説明責任が果たせるし、仕組みとしても有効ではないでしょうか。

人の心を動かす「パーパス」作りを支援

----最後に、お二人は今まで、多くの企業のパーパス策定に関わってこられたと思いますが、博報堂グループならではの特徴、強みは何でしょう?

竹内:博報堂は生活者発想を企業フィロソフィーに掲げてきているので、そのクライアントの事業活動や商品・サービスが、生活者あるいは社会にとってどんな意味があるのか、生活者の側から見ていくというスタンスは、我々のDNAに染み込まれていると思います。パーパスは、ブランドの多様な領域の一つですが、実際、そのパーパスをどうやって事業の中で実現するのか、そのパーパスをどのようにお客様や生活者に伝えていくのか、そのコミュニケーションをどうしていくのかといったことをつねに意識しながら関わっています。また、私の部門では現在、ブランド作りは仲間作りということも提唱していて、ブランドの志に共感するコミュニティをどう作っていくかというアクションも提案させていただいています。クリエイティブ職はもちろん、サービスデザインやプロダクトデザインなどの専門スタッフも含めて、人材と機能が多彩多様であることが強みだと思っています。

牧口:全く同感ですね。生活者発想って、こういう領域こそ大事だし、そこが博報堂グループの特徴だと思います。また、私たちはパーパスを作った方がいいという提言はするけれど、どんなパーパスにしたらいいとは絶対言いません。もちろん、クライアントのパーパス策定のプロセスに並走しながら、中身を一緒に考えることは当然しますし、一番大事なステークホルダーである生活者や顧客を抽出し、あぶり出していくという部分は博報堂のDNAとしてすごく強みだと思っています。
もう一つ、今パーパスの策定で難しさがあるとしたら、今、グループ経営している企業がほとんどなんですよね。ほとんどの企業が単一事業というよりは、いろんな事業体を抱えています。そうなると顧客も事業ごとに全く異なっていたりするので、策定に難しい作業が発生します。そこをすべて内部でやろうとすると本当に大変です。そのプロセスにファシリテーターのような立場として私たちが入りこんで、ひとつのパーパスに集約していくお手伝いをするのは、エネルギーはかかりますが、私たちの得意とするところです。

竹内:パーパスは、策定だけでは終わらないプロジェクトで、それを事業やサービス、プロダクト、コミュニティに実体化していくことこそが重要なのです。ですから、表現された言葉一つとっても、博報堂グループは広告ビジネスを通じて、人の心を動かすことを考え続けてきたので、その領域でも強みを発揮できると思います。要は、ブランディングを主戦場とするコンサルティングという領域と、人の気持ちを動かすコミュニケーションの領域、二つの領域を掛け合わせたアウトプットこそが私たちの得意とするところかなと思います。

----本日は、貴重なお話をありがとうございました。

パーパス策定の全体像についてより詳しく知るには、こちらのコラムもあわせてお読みください。

ブランド・トランスフォーメーション(BX) の軸となるパーパスのつくりかた
https://www.hakuhodo-consulting.co.jp/blog/purpose/20230630

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