
ネット上には多様な生活者の声があふれています。中でも、ブラウザ検索のキーワードとして打ち込まれた文字列には、生活者自身の思考が素直に投影されています。あの細長い検索窓には、生活者が疑問に思っていること、分からないこと、悩んでいることが、時として検索ワードというより心情を吐露する文章になって打ち込まれているのです。
本連載では、そんな検索ビッグデータに現れた生活者の移ろいゆく心を様々な博報堂社員の視点でご紹介していきます。ベースになっているのは、博報堂生活総合研究所が提唱する、デジタル上のビッグデータをエスノグラフィ(行動観察)の視点で分析する手法「デジノグラフィ(https://seikatsusoken.jp/diginography/)」の考え方です。
ビッグデータ分析、というとなんだか肩に力が入ってしまっていけません。リラックスした気分で、データの向こう側にある現代社会を生きる生活者の日々に思いを馳せられる半分エッセイのようなコラムを連載でお届けします。
※本コラムは、Webメディア「NewsPicks」の「トピックス」に掲載された記事の転載です。
山本 薫
人材開発戦略局 ストラテジックディレクター
「やり方」物事を行う方法。物事をする手段。しかた。「まずい--」「--を変える」
(Weblio辞書より 2023/2/13参照)
皆さんは新しいサービスを使ってみようと思ったらまずどうしますか? 私もそろそろフリマアプリや決済アプリを使い始めようと思ったのですが、いざはじめようとしてもやり方がわかりません。まわりにすぐ聞ける人もいません。でも今は便利なもので、検索エンジンでやりたいことを簡単に調べられますね。
ということで、今回のフックワードは「やり方」です。生活者は果たして何の「やり方」を調べているのでしょうか? ヤフー株式会社が提供するデータ分析ツール「DS.INSIGHT」を使って、2021年1年間の検索データの中から「やり方」を含む検索の上位10位をランキングにしてみました。
※「DS.INSIGHT」では統計化されたデータのみを扱っており、個人を識別可能な情報は含まれません。
みんなが検索したのはなんの「やり方」?

一番検索ボリュームが大きいのは「スクリーンショット」でした。おそらく資料作成で必要になって調べたのではないかと思われます。スクリーンショットはいまやどのデバイスでも標準装備になっていますが、PCとモバイル、またPCの中でもWindowsとMacではやり方が異なるので、デバイスを変えたときによく調べるのかもしれません。
生活の中で必要な手続きも多く調べられているようです。「確定申告」「ふるさと納税」「銀行振込」など、はじめてやるときは調べないとわからないですよね。
特定のサービスについては「ヤフオク」、「メルカリ」、「アマゾン」などeコマース系が上位にあがっていることから手軽にオンライン購入できるサービスへの関心の高さが伺えます。
年代別での検索傾向は?
年代別で違いがあるかもみてみました。

20代が一番多く「やり方」を調べているのが「確定申告」になっており、こちらのワードは30代以降では順位が下がっていきます。また「銀行振込」も上位5つに入っているのは20代だけです。20代で社会的な手続きをやり始める人が多いからこういう結果になっているのだろうと考えられます。
30代で特徴的なのは2位の「お食い始め」です。はじめて子供ができる人が多いからでしょうか。
40代になるとメルカリ、ヤフオクなどフリマ、オークションアプリが上位にあがっています。20代、30代で既に利用者が多いこれらのアプリを、これまで使っていなかった40代の人も関心を持つようになり「やり方」を調べ始める----そういうケースがこの検索データにあらわれたと考えられます。
以上、今回は「やり方」をフックに生活者がどんな事柄を検索しているのかを見てきました。
以前この連載でご紹介した「方法」というフックワードを含む検索データの分析では、「眠れない時寝る方法」「自律神経を整える方法」など体調管理に関する具体的なニーズが世代共通の特徴として出てきていました。
一方、今回の「やり方」ではそのような健康や体調管理に関するワードは上位にみられず、その代わりに「確定申告」「銀行振込」のように様々な手続きに関する「やり方」が上位に多くあがっていました。
「方法」と「やり方」どちらも似た言葉ですが、検索されるシーンには違いがあるようです。

山本 薫
人材開発戦略局 ストラテジックディレクター
ストラテジックプラニング職としてマーケティング業務に幅広く携わり、現在は人材開発戦略を担当。ワークショップデザインやデザイン思考でプロジェクトを進めることが得意。