コロナ禍以降、オンライン購買を利用する生活者が増えています。今後継続的にオンライン購買市場を拡大させていくためには、購買体験をさらに進化させる必要があります。その進化の方向性の一つが、ECにライブ映像配信を組み合わせたライブコマースです。博報堂DYグループの博報堂とアイレップは、ライブコマース支援ソリューション「HAKUHODO Live Commerce+」を提供開始しました。そのコンセプトや活動内容を紹介する記事を複数回に渡ってお届けしていきます。今回は、ソリューション開発の背景やビジョンについて、4人の中心メンバーに語ってもらいました。
澤田航太 博報堂 データドリブンプラニング局 ストラテジックプラナー
武者慶佑 アイレップ ライブコマース・エヴァンジェリスト
福井健史 博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 統合ディレクター
恩地紗代子 アイレップ クリエイティブプロデューサー
兼 ライブ系ソリューション推進チーム「TAKE ZERO」プロジェクトマネージャー
「統合マーケティング戦略」と「実践知」を融合させる
──ライブコマースの第2次ブームが来ていると言われています。
澤田
ライブコマースの第1次ブームは、2010年代後半に中国から始まったものでした。ライブの配信者を「ライバー」と呼びますが、中国ではKOL(Key Opinion Leader)と呼ばれる有名ライバーによるライブコマースで、1日に数十億円の売上を上げる例も見られました。
その後、ライブコマースは東南アジア、アメリカ、日本にも広がっていきました。それがライブコマース第1次ブームです。日本でブームが起こったのは2017年くらいでした。その時点では中国のやり方をほぼそのまま踏襲するケースが多かったのですが、中国と日本では購買習慣などが異なることもあって、過度な期待値を満たす結果は生まれませんでした。結果、ブームは短期間で収束してしまいました。
その後、オンライン購買の重要性が一気に高まったコロナ禍を経て、ライブコマースは新たなマーケティング手法として再び注目を集めています。ライブコマースには、リアルタイムなコメントを通じた視聴者とのコミュニケーション・嘘のつけないライブ配信という方式により商品への信頼を生み出す力があります。その特徴をいかして、より豊かな購買体験を提供しようと多くの企業がチャレンジを始めています。この状況は「第2次ブーム」と呼べるかもしれませんが、第1次ブームと異なり時代の要請に応じた、一過性でない動きと言っていいと思います。
武者
生活者との接点において、いかにロイヤリティを高められるか──。そのような問題意識でライブコマースに取り組んでいる企業が多いのが今回のブームの特徴です。一方で、第1次ブームと同じKOL活用型の手法でライブコマースを行おうと考えているプレーヤーも少なくありません。僕たちの役割は、マーケティングとしてのライブコマースの「定型」をしっかり広めていくことだと考えています。
福井
第1次ブームの時点では、ライブコマースを統合的なマーケティングコミュニケーションの中に位置づけるという発想はほとんどありませんでした。しかし最近は、CRMまでを含むトータルなマーケティング戦略の一部としてのライブコマースという考え方が浸透してきています。目的や戦略を大きく描いた上でコミュニケーションをデザインすることができるようになっているのが、現在のライブコマースの特徴だと思います。
──そのような背景を受けて発足したのが「HAKUHODO Live Commerce+」ですね。このソリューションの概要をお聞かせください。
澤田
「HAKUHODO DX_UNITED」傘下の博報堂DYグループ9社の横断戦略組織であり、「価値創造型の次世代ショッパーマーケティング」をワンストップで提供するショッパーマーケティング・イニシアティブ™の取り組みとして発足したのが「HAKUHODO Live Commerce+」です。現在のチームの主体は博報堂とアイレップですが、今後は社内外のプレーヤーとの連携を進めていきたいと考えています。
──グループ企業の中で博報堂とアイレップがタッグを組んだことの意味合いとは。
澤田
クライアント企業のライブコマースを支援するために必要なのは、「統合的な戦略」と「実践知」であると僕たちは考えています。ライブコマースを行うこと自体を目的にするのではなく、ライブコマースによっていかに事業・ブランドを成長させるか。そのような視点で、ライブコマースをマーケティング戦略に組み込んでいくことが必要です。その支援において発揮されるのが、博報堂の統合プランニングの力です。一方、日本市場に適合したライブコマースを実践する上で豊富な実績をもっているのがアイレップです。両者の力を合わせることによって、ライブコマースの可能性を大きく広げていくことができる。それが、このタッグのもつ意味合いです。
恩地
アイレップは運用型広告の手法や発想でクライアント企業のマーケティング課題を解決することを得意としているデジタルエージェンシーで、PDCAを回しながらコミュニケーションの精度を高めていく方法に強みがあります。その強みをライブコマースにもいかしていきたいというのが、このユニットに私たちが参加した理由の一つです。
もう一点、私たちはこれまで、ライブコマースに積極的に取り組んでいるインフルエンサーのゆうこすさんと、「日本のライブコマースの文化をつくる」という目標に向かって協業を進めてきました。文化をつくるには総合的なコミュニケーションの力が求められます。それはまさに博報堂の得意分野です。博報堂とアイレップがチームを組むことで、大きなシナジーが発揮されると私たちは考えています。
ライブコマースで発揮されるブランディングとクリエイティブの力
──博報堂DYグループとしてライブコマースに力を入れる理由についてもお聞かせいただけますか。
福井
クライアントの事業成長やブランドの進化を支援するのが博報堂DYグループの大きなミッションです。そのミッションを達成するための方法の一つがこれまでは広告でした。しかし現在、生活者の価値観の変化、メディア環境の変化に伴って、その方法は多様化しています。そのような状況を受けて、私たちは新しい方法へのトライを続けてきました。ライブコマースもその方法の一つだと思っています。
では、なぜライブコマースか。ライブコマースには「ブランデッドコマース」と「コンテンツコマース」という2つの価値があると考えています。一般的に、「広告」と「購買」の間には距離があります。広告でブランドの魅力を伝え、その後実際に商品を買ってもらうまでの距離です。しかし、ライブコマースは、ブランド体験と購買体験が一体化できます。ブランディングをしながら売ることができるわけです。これが、ライブコマースは「ブランデッドコマース」であるということの意味です。
また、その体験をより充実したものにするには、コンテンツとしての魅力が求められます。コンテンツクリエイティブの質がそのままコマースの成果につながる。つまり、ライブコマースは「コンテンツコマース」でもあるということです。
──ブランディングとクリエイティブという博報堂DYグループの得意領域のポテンシャルが発揮されるのがライブコマースということですね。
福井
そう思います。そのポテンシャルを、購買接点で活かせるのがライブコマースです。企画制作者としてもいろいろなアイデアが湧いてきます。例えば、オーブンレンジを売るライブコマースはキッチンスタジオから発信するというのが定石ですが、あえて無人島から映像を配信してみるのはどうだろう、とか。見たくなるコンテンツにしながら、これ一台であらゆることができることを訴求することができるかもしれません。これまでになかったアイデアと企画によって、生活者のブランドエンゲージメントを高め、商品の売上を上げる。そんなチャレンジのしがいがある領域です。
恩地
マーケティングコミュニケーションにおいて、認知を獲得する領域はアッパーファネル、購買に近い領域はロウワーファネルと呼ばれますが、ライブコマースはその中間のミドルファネルを軸に、フルファネルを網羅できる施策であると私たちは捉えています。インフルエンサーなどの力をお借りしながらフルファネルで攻略していくというのは、博報堂DYグループでもこれまであまりなかった取り組みだと思います。ライブコマースを成功させるマーケティングやクリエイティブの形を私たちの力でしっかりつくっていきたいと考えています。
HAKUHODO Live Commerce+を構成する3つのサービス
──HAKUHODO Live Commerce+を構成する3つのサービス
澤田
大きく3つあります。「ライブコマース実施支援」「ネットワーキング」「ノウハウ提供」です。1つ目のライブコマース実施支援は、戦略設計から、企画、動画撮影、配信、評価までをワンストップでご提供するサービスです。
恩地
アイレップには、広告はもちろんですが、テレビ番組やライブ配信の知見を持ったメンバーが多く在籍しているため、実施支援の部分では企画からコマーサー※キャスティング、そして台本作成や現場での演出・ディレクションまでサポートできるのが強みです。ライブコマースをやってみたいけれど、どうやっていいかわからない。そんなクライアント企業の課題を一からサポートすることが可能です。
※コマーサー:アイレップが定義する人材の概念。フォロワーの多いインスタグラマーやYouTuberではなく、リアルタイムにユーザーの質問やコメントに応えながら商品・サービスを自身の言葉で伝えるライブコマースに特化した配信者を指す。
武者
「コマーサー」というのはライブコマースに登場して商品のアピールをする人のことで。一般にはインフルエンサーやライバーと呼ばれますが、僕たちはこのコマーサーという言葉にこだわっています。コマーサーの条件は、「商品を軸としてユーザーと双方向的なコミュニケーションができる人」です。有名インフルエンサーを起用して映像を配信すればいいということではなく、対話力と商品に対する理解力をもった人をアサインしなければならないというのが僕たちの考え方です。
このチームの目標の一つは、先ほども言ったとおり、ライブコマース実践の全体を体系化し、再現性のある「型」をつくることです。その「型」の一つとして、「SIRRAS」というライブコマース演出のフレームワークを僕たちは提唱しています。「Show」「Image」「Response」「Repeat」「Activate」「Share」という流れでライブコマースの成果を最大化するフレームワークです。
福井
ライブコマースを実施するに当たっては大切にしている「タテの視点」と「ヨコの視点」というものがあります。。EC、リアル店舗、SNSなど、さまざまな生活者との接点や販売チャネルとの連関においてライブコマースを捉えるのが「タテの視点」、ライブコマースで商品を買ってくれた生活者と継続的な関係をつくり、ロイヤルカスタマーとなってもらう流れをつくるために求められるのが「ヨコの視点」です。
オーブンレンジの例をもう一度出すとすると、料理家にコマーサーとなっていただき、レンジを売るだけではなく、購買者に向けて継続的にレシピを届けたり、レンジの使い方を提案したりすることでリレーションを継続させる。それが「ヨコの視点」に基づいた取り組みです。タテとヨコの2つの視点から生まれた戦略をベースに企画を考えることで、クライアントの事業成長に寄与するライブコマースになっていくと思います。
体系化したノウハウを世の中に広く伝えていく
澤田
2つ目の「ネットワーキング」は、配信方法をご提案するサービスです。映像配信には、InstagramやFacebookなどのSNSのプラットフォームを使う方法、SHOWROOMや17LIVE・Pocochaなどライブ配信に特化したプラットフォームを使う方法、自社ECサイトにライブ配信機能を実装する方法の大きく3つがあります。博報堂DYグループには、多様なプラットフォーマーとのネットワークを構築してきた強みがあります。また、プラットフォームごとに適した集客方法・広告配信・効果測定の形が存在します。それらのポテンシャルを踏まえ、最適な座組を提案するサービスが「ネットワーキング」です。このネットワークを生かし、ライブ配信のUI進化や配信者の報酬体系のあり方などライブコマース業界全体を盛り上げる取り組みを展開していきたいと考えています。
恩地
配信方法には、それぞれにメリットがあります。SNSプラットフォームを使う方法の利点は、お金がかからず、手軽に始められることです。また、企業がSNS上ですでにつながっているユーザーとの関係をベースにできるというメリットもあります。一方、自社ECサイトを使うメリットとして、商品のスペックなどの詳細情報をサイト内で伝えられること、購買までのハードルを下げられることなどが挙げられます。クライアント企業の戦略に応じて最適な配信方法を提案していきたいと考えています。
武者
どのプラットフォームを活用するかを見極めることは、ライブコマースを成功させるための必須要件です。プラットフォームごとの特性を熟知して、信頼できるプラットフォームをクライアント企業に紹介していくことが僕たちの役目です。
──3つ目が「ノウハウ提供」ですね。
澤田
このサービスは、さらに2つに分けられます。「コマーサー育成」「海外トレンド発信」です。クライアント企業がライブコマースに関して体系化されたノウハウを獲得し、継続的に成功のサイクルを作ることを支援します。
恩地
アイレップは、ゆうこすさんがファウンダーを務めるライバー事務所 株式会社321と昨年3月に協業をスタートさせ、事務所所属のライバーの皆さんをプロのコマーサーに育成していく取り組みを始めました。その取り組みの中で開発したのがクライアント企業の社員の方をコマーサー化するための教材「インハウスコマーサー育成パッケージ」です。ライブコマースにおけるコメントの取り上げ方や、商品説明のポイント、目線のコントロールの仕方などを解説した一種の教科書です。すでにこのコンテンツをクライアント企業に提供して、ライブコマースの質の向上に役立てていただいています。
武者
僕自身もライブコマースについての記事を書いたり、講演をしたりして、ノウハウをオープンにしていく活動をしています。最近『成果を上げるライブコマースの教科書』(翔泳社)という本も出版されました。ノウハウを蓄積し、体系化するだけでなく、広く世の中に伝えていくことが大切だと思っています。
澤田
ノウハウ提供は、1つ目のライブコマース実施支援とセットでご提供するのが望ましいと考えています。座学で学んだノウハウは、実際の生活者を相手取った実践によってはじめて実用的なスキルになります。コマーサー育成支援や配信ノウハウのご提供をした上で、実際にライブコマースを実施し、その結果を検証して、次の手にいかしていく。そんな流れがつくれれば理想的です。
また、日本ではライブコマースの成功例がまだ少ないので、海外事例も含めたリサーチが必要です。博報堂DYグループのグローバルネットワークを活用しながら、海外のライブコマースの情報を収集してクライアントに提供し、かつ海外で成功した方法を日本市場で展開する際にどうチューニングすればいいかという仮説もご提案する。こちらも企画や戦略策定の段階で議論の種として活用し、新たな企画設計・配信手法の開発に役立ててまいります。
ライブコマースの「仲間の輪」を広げていきたい
──今後、企業のライブコマースを支援していくに当たっての意気込みを最後にお聞かせください。
武者
日本におけるライブコマースの文化をつくり、定着させていくことが僕たちの大きな目標です。その目標に向かって活動を続け、ライブコマースを始めたいと考える企業に最初にHAKUHODO Live Commerce+を想起していただける、そんなポジションを獲得していきたいですね。
福井
ライブコマースは、クリエイティブの領域としてもやりがいがあります。企業の事業成長に寄与するブランデッドコマースとコンテンツコマースを実現するための取り組みをこれからも続けていきます。
恩地
アイレップはこれまで、「ライブコマースを科学する」というテーマを追求してきました。そこに博報堂のプランニング力やクリエイティブ力を掛け合わせれば、ライブコマースの成功の型をつくれると信じています。その型を多くのクライアント企業に提供していきたいと思っています。
澤田
文化をつくるために必要なことは、「仲間」を増やすことです。プラットフォーマーやシステムベンダー・制作プロダクションの皆様を巻き込んで大きな「仲間の輪」をつくっていくことを目指していきます。その輪の中心にいるのは、もちろんクライアント企業の皆様です。強力な仲間の輪をたくさんつくって、事業・ブランド成長のためのライブコマースを確立したい。そう考えています。
■書籍情報
本書は、コロナ禍の影響を受けてライブコマースという新しい購買体験が注目されるなか、誰もがライブコマースに着手しやすいように、おさえておくべき基本要素と実践法についてわかりやすく解説しています。これまで当社で培った知見をもとに、国内外の動向や日本におけるライブコマースを軸としたリアル店舗やECショップとの連携方法、著名人との対談・インタビューまで、幅広い内容で構成されています。ライブコマースで成果を出したいすべての方へ、お勧めの一冊です。
【書籍概要】
タイトル: 「成果を上げるライブコマースの教科書」
著者:株式会社アイレップ 武者慶佑、池田好伸、川田麻由佳
https://www.amazon.co.jp/dp/4798172871
出版社:翔泳社
発売日:2022年3月22日
澤田 航太
HAKUHODO EC+ メンバー
博報堂
データドリブンプラニング局 ECプラニング部 コンサルタント・ストラテジックプラナー
2017年に博報堂に中間入社。営業・メディアプラナーを経て現職。EC事業の中長期戦略策定・D2Cブランド立上げ・ECチャネル戦略策定など、ECを起点とした事業プラニングを担当。
武者 慶佑
株式会社アイレップ
ライブコマース・エヴァンジェリスト
事業会社のマーケティング部を経て、2012年よりシェアコトに勤務。2021年4月よりアイレップに参画。ブランドファンの構築とコンテンツファン視点の企画が専門。映画宣伝のコンサルティング、カフェチェーンのブランドマネージャーなども歴任。また、自身で日本グミ協会を設立し、会長として活動(2021年9月4日より名誉会長)。「マツコの知らない世界」など多数のメディアに出演し、SNSフォロワーは延べ100,000人。しゃべれるグミインフルエンサーとして活動する中で、現在はライブコマース・エヴァンジェリストとして活動し、2022年3月に「成果を上げるライブコマースの教科書(翔泳社)」を出版。
福井 健史
博報堂
生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 統合ディレクター
2008年博報堂入社。メディアや手法にとらわれないブランドコミュニケーション・クリエイティブ開発に従事。近年は、コマース領域を起点にした企画開発を提唱、「コマース・クリエイティブ」プロジェクトを推進している。受賞歴に、ACC金賞、ADFEST金賞、SPIKES ASIA金賞、新聞広告賞大賞、グッドデザイン賞など。
恩地 紗代子
株式会社アイレップ
クリエイティブプロデューサー
兼 ライブ系ソリューション推進チーム「TAKE ZERO」プロジェクトマネージャー
広告制作会社、広告会社でのプロデューサー、ディレクター経験を経て、フリーランスでテレビ番組のディレクターとして活動。2019年にアイレップに入社し、クリエイティブプロデューサーとして動画広告やPR施策のプランニングに従事。2021年よりライブ系ソリューションの推進チーム「TAKEZERO」のプロジェクトマネージャーを務める。