毎年9月にオーストリアのリンツにて開催されるメディアアートの祭典、「Ars Electronica Festival(アルス・エレクトロニカ・フェスティバル)」。
会期中に展開された博報堂の「生活者発想」をアルス・エレクトロニカにインストールする新たな試み、「People Thinking Lab」について、展示およびレクチャーを担当した博報堂生活総合研究所の酒井崇匡がレポートいたします。
ひらけ、みらい!People Thinking Lab
今回、博報堂チームは、私たちの「生活者発想」をアルス・エレクトロニカにインストールする試みとして、People Thinking Labを会期を通じて展開しました。
アートを起点から未来を視るアルスの発想法(Art Thinking)と、生活者を起点に未来を視る博報堂の発想法(People Thinking)を掛け算するとどうなるだろう、というアルスのフューチャーラボの皆さんとのディスカッションの中で生まれたアイディアをフェスティバルの場で実現したのです。
Lab内では、生活総研の最新研究成果である「みらい博 あしたのまちの100の風景」で描き出した4つの街のシナリオを展示するとともに、アルス・エレクトロニカオリジナルの共創インスタレーションShadowgram(シャドーグラム)を活用し、「未来の街での生活に必要なものとは?」、「未来における人間のサンクチュアリとは?」といった様々な問いを来場者自身が発想し、反応し合う場を用意しました。
フェスティバル会場内に用意されたステージでは、生活者発想のメソッドに関するレクチャーを実施。参加者からは、博報堂の持つ生活者を捉えるユニークな発想とメソッドに対して、「真のイノベーションは技術進化だけがもたらすものではなく、人間のエモーションを深く読み解く視点と方法論が不可欠だ」という共感の声が多くあがりました。
また、LABではPeople Thinking Tool Collectionと題し、博報堂の発想のプロセスを可視化するツールや、私たちが観察してきた「くらし」や、「感情」といった不定形なものを、アイディアとデザインで具現化するアート作品の展示を行いました。自動運転、AI、シンギュラリティといった、人間の存在理由を問う言葉が立ち並ぶ今だからこそ、言葉にならない人間の無意識を表現に押し出し、再確認する場が必要とされると考えたからです。
まとめ
People Thinking Labを通じて改めて気づかされたのは、生活者発想が持つ、未来を拓く手段としてのポテンシャルです。そして、生活者発想にアートが掛け算された時に生まれるそのアプローチは、生活者インサイトと世の動きへの深い洞察に根差しつつも、「解」を提供するのではなく「問い」を突き付け、それに何を感じ、考えるかは生活者に預けるという、ある種とても乱暴なアプローチなのではないかと思います。しかし、乱暴だからこそ、そこには驚きと様々な気付きを生む余地が生まれます。生活者発想とアート、テクノロジーの結びつきは、新たな未来を拓く起爆剤となる。博報堂とアルス・エレクトロニカのコラボレーションは、そんな確信を生み出しました。
酒井 崇匡 (さかい たかまさ)
博報堂生活総合研究所 上席研究員
博報堂生活総合研究所 上席研究員。2005年博報堂入社。マーケティングプランナーとして、教育、通信、外食、自動車、エンターテインメントなど諸分野でのブランディング、商品開発、コミュニケーションプランニングに従事。2008年より博報堂教育コミュニケーション推進室に参加。2012年より現職。著書に『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(2015年/星海社)がある。
<博報堂生活総合研究所とは>
博報堂生活総合研究所は、博報堂が「生活者発想」を具現化するため、1981年に設立した研究所です。人間を、単なる消費者としてではなく「生活する主体」という意味で捉え、その意識と行動を研究しています。
生活者の価値観の変遷を時系列調査で追跡する、実験的な手法から未来への兆しを見出す、生活の現場へ飛び込み生活者と一緒に考える、など生活者に対し多角的かつユニークな観点で研究を行う世界にも例のないシンクタンクです。
「ひらけ、みらい。」を合言葉に、研究員一人ひとりの多彩な個性と、市場・業種の枠を超えた幅広い思考から、いまの延長線上にある「未来」を、生活者みんながもっとワクワクできる「みらい」にひらいていきます。
https://seikatsusoken.jp/