
博報堂DYホールディングスは、6月に開催されたLGBTQ+イベント「Tokyo Pride 2025」に初協賛し、「ちがいを知ろう。おなじを知ろう。」というスローガンのもと「Pride Festival」にブースを出展しました。ブースでは、「CAN-DAY 今日できることから、はじめよう。」をテーマに、誰もが自分らしく生きられる社会を実現するために、今日からできる12のアクションをイラストとコピーと共に展示。ブースでアンケートにご協力くださった方に、アクションステッカーが入ったキャンディボックスをお渡ししました。展示を見てくださった方からは、「あらためて行動を考えるきっかけになった」「勇気をもらえた」といった反響をいただきました。
本記事では、制作を担当したクリエイティブメンバーに、スローガンやテーマ、コピーなどに込めた想いを聞きました。
山﨑博司/博報堂 クリエイティブ局 山﨑チーム クリエイティブディレクター・コピーライター
平野琢也/博報堂 クリエイティブ局 PRディレクター
大野眞子/博報堂 クリエイティブ局 コピーライター
梶川裕太郎/博報堂 クリエイティブ局 デザイナー
舩越啓(聞き手)/博報堂DYホールディングス サステナビリティ推進室 室長補佐
クリエイティビティで世の中のステレオタイプを変える
舩越
博報堂DYホールディングスでは2022年にサステナビリティ推進室が立ち上がり、社員一人ひとりがクリエイティビティを最大限に発揮し、多様な人財が活躍できる環境づくりを目指して、一つずつ活動を進めてきました。「Tokyo Pride 2025」への参加もその一つです。
今回のブース出展にあたり、博報堂DYグループらしいコミュニケーションを行いたいと考え、まず山﨑さんにクリエイティブディレクターをお願いしました。

山﨑
そうでしたね。そのあと私から平野さん、大野さん、梶川さんに声をかけ、チームを組みました。それぞれ別の業務で関わりがあるのですが、今回のテーマにふさわしいメンバー。このスタッフィングができた時点で「いいプロジェクトになるはず」と確信しました。たとえば大野さんは、学生時代にジェンダーの勉強をされていたんですよね?
大野
はい。大学でジェンダー・セクシュアリティを専攻していて、博報堂の入社面接でも、学んだことを活かして世の中のステレオタイプを変えたいと話したことを覚えています。今回はまさにその希望を叶えられる企画で、コピーライターとして参加できて光栄でした。
舩越
施策をはじめ、ステートメントやアクションコピーなどを創り上げるまでに、幾度となく皆さんと対話を重ねましたね。平野さん、梶川さんは、今回の企画に参加していかがでしたか?
平野
私はプラナーとして企画とPRを担当しましたが、一番印象的だったのは、イベント当日来場されていたたくさんの方が皆さんウキウキされていて、とても楽しそうだったこと。ブースに立ち寄ってくださった方にお渡しするため用意していた2000箱のキャンディボックスもあっという間になくなり、皆さんが「ポジティブな活動に参加できてうれしい」と感じていらっしゃる様子が直接感じられて、私もうれしかったです。
梶川
私はデザイナーとして、企画から関わりながら、複数の制作物を一気通貫でつくれたことに手ごたえがありました。チームで何度も話し合う中で、軽やかで楽しい表現にしたいと思い、ポップな絵が得意なイラストレーターのビオレッティ・アレッサンドロさんにイラストを依頼しました。ビオレッティさんのイラストも、全体の雰囲気づくりに大切な役割を担ったと思います。

コミュニケーションで大事なのは、「同じ」を知ること
舩越
会場では、「ちがいを知ろう。おなじを知ろう。」という大きなスローガンのもと、行動を促すテーマとして「CAN-DAY 今日できることから、始めよう。」を掲げて、「必要なのは、優しい気持ちと理解だけ。」「思い込みより、想像力を働かせよう。」といった12のアクションコピーをイラストとともに展示。当日は、これらの親しみやすいクリエイティブが、来場された多くの方の心を動かしているのを間近で感じました。

制作過程では、どのようにスローガンや12のアクションなどを決めていかれたのですか?企画ミーティングでは相当ディスカッションされたと聞きましたが......
山﨑
まず、今回の出展を通して伝えるメッセージを決めることからスタートしました。LGBTQ+に関する理解を促すためのコミュニケーションは、多くの場合「違い=多様性を認めよう」という内容になりがちですが、一方で「違い」を強調するだけだと断絶を生むのではないか......という疑問もあり、この違和感はメンバー全員にとって無視できないものでした。

大野
コンセプトを考える際、「何でもない日常」についてたくさん議論しましたよね。LGBTQ+、いわゆるセクシャルマイノリティの方の割合は、左利きの人の割合と同じかそれ以上だと言われています。そうすると、知っているかは別として、どんな人も日常の中で当事者の方に接しているはず。それなのに「自分との違い」にばかり着目するのはなぜなんだろう、と話し合いました。そして、「同じ」だと捉えることも大事だとわかりやすく伝えられるようコピーに落とし込んだのが、「ちがいを知ろう。おなじを知ろう。」というスローガンでした。
山﨑
初対面の方と話すとき、「今日は雨が降りそうですね」みたいな共通の話題を探したりしますよね。そのように共通点を探すのもコミュニケーションにおいて必要だね、という話が上がったことから、「同じ」を知ることも大事だとメンバー全員が腑に落ちたんです。それが今回のクリエイティブの核になりました。


<クリエイティブ協力>
全体監修:大広 LGBT総合研究所 森永貴彦
スローガン、ステートメント、アクティベーション企画:博報堂 山﨑博司、平野琢也、大野眞子、梶川裕太郎
レインボーロゴ制作:博報堂デザイン 永井一史、藤田蓮
イラスト:ビオレッティ・アレッサンドロ
今日からできることを、12のアクションに
舩越
なるほど、そのような議論があったのですね。今回はブースでアンケートに回答くださった方にキャンディボックスを配布しました。先ほど平野さんがおっしゃったように、カラフルでかわいいパッケージも人気であっという間に完配してしまったのですが、そのアイデアはどこから生まれたのですか?
山﨑
お互いに「違い」や「同じ」を知るには、やはり会話が大切です。出展ブースで会話を生む手段としてコーヒーを配る案も出たのですが、実現が難しそうで。あれこれ話す中でキャンディの案があがり、これって「キャンディ」を「CAN(=できる)、DAY(=今日)」に掛けられるね、という話から、「CAN-DAY 今日できることから、始めよう。」というテーマが生まれました。
舩越
そこから、今日からできる12のアクションにかみ砕いて落とし込んだのですね。それも皆さんが理解しやすくなったポイントでしたね。
山﨑
共通点を探ることと同様に、もうひとつ意識したのは、来場する一人ひとりの知識の差が大きいという点でした。Tokyo Prideには、当事者の方からたまたま立ち寄ったという方まで、さまざまな人が集まります。その前提で、それぞれが自身の視点で何かしら気づきがあったり、具体的に意識できたりするようなコピーを、さまざまな切り口で考えていきました。
平野
コピー案を絞り込んでいく際、「知識を提供するもの」「行動を促すもの」など、いくつかのカテゴリーに分類しました。「カミングアウト。する自由もあれば、しない自由もある。」のようにLGBTQ+の理解に直接つながる切り口だけでなく、「ちがいでつながる友だちを持とう。」のように誰にでも当てはまる観点も織り交ぜたことが、共感性を高めた要因だと思います。

大野
あまり知識のない人の興味も引き、「これならできるかも」と思ってもらえることを意識しましたよね。
舩越
なるほど。ポスターやパネルなどの制作においては、どういったことを特に意識されたのですか?
梶川
コピーを先に考えて、そこからイラストを制作したのですが、大事にしたのは「社会課題だからこそ、真面目に描きすぎない」ということです。同時に、イメージを限定しないように、あまり精緻に描きすぎないことも重要だろうと考えました。そこから、特定の対象を想起させずに共感を呼べるよう、普遍性がありながらポップなタッチが得意でいらっしゃるビオレッティさんにイラストをお願いしたんです。性別や肌の色などが多様なだけでなく、河童や天使もいる楽しいビジュアルに仕上げてくださいました。
当初はポスターに掲載する12のアクションのイラストを依頼したのですが、その後キャンディを配布する案が出てきて、そのパッケージ用のイラストも描いていただきました。キャラクターが円になって手をつないでいるのですが、これがまた素敵で。そのままキービジュアルとして展開することになりました。

今回のメッセージが当たり前の社会になるように
舩越
今回の企画を進めていただく中で、通常の業務と異なる点や、工夫したこと、気づきなどはありましたか?
梶川
今回はLGBTQ+に関する理解の促進がテーマでしたが、ビジュアルの面では、直球ではなく少し斜めというのか......柔らかく伝えることを意識しました。その方法は、他の社会課題などにおいても活用できると思っています。
山﨑
難しい課題ほどアウトプットも難しく考えてしまいがちですが、直球で説明したからといって関心を持ってもらえるとは限らないんですよね。
私は、通常の業務と異なる部分はあまりなかったのですが、博報堂DYグループらしさは心掛けました。キャンディを使って会話を生むという施策を通じて、博報堂DYグループらしいと感じてもらえるコミュニケーションができたと思っています。
平野
私は「違い」と「同じ」の視点が見つかったことが、大きな学びになりました。多様な方にメッセージが伝わるようにそぎ落としていくと、地球に生きる者として大切にしたいこと、という概念に行き着いたんです。チームでたくさん話し合って、最も伝えたいことを言葉とビジュアルに落とし込んだプロセスそのものが、すごく勉強になったと実感しています。
大野
今回のクリエイティブで提示した考え方は、当社グループ全員が理解していることが大事だと強く感じました。私たちは業務において、企業が伝えたいことを世の中に広めるお手伝いをしていますが、たとえば家族やパートナーを描く際、その描き方も時代に合わせてアップデートしていかないといけないですよね。出展してよかった、で終わらせず、引き続き取り組むべき大切な活動だと感じています。

舩越
最後に、これからの社会に望むことや皆さんの展望などをお聞かせください。
平野
当日、「テレビ番組でTokyo Prideのことを知って......」と遠方から来られた方がいたんです。ご自身は、LGBTQ+についてほとんど知らないけれど、知らなければいけないと思って、とおっしゃっていたので、展示していた12のアクションのコピーを一つひとつご説明したら、とても感心されていました。こんなふうに日常的に触れる機会が増えるといいですよね。まずは皆が触れることで、少しずつ変わっていく気がします。
梶川
会場では皆さんがオープンで、その空間全体の雰囲気がとても素敵でした。ただ、裏を返せば、普段の会社やコミュニティなどではそこまでオープンになれないのかもしれません。少しずつですが、普段から受け入れられる雰囲気をつくれるといいなと思っています。
また当日ブースで、世田谷区の青少年センターの職員の方がポスターを施設に展示したいと声をかけてくださり、後日2カ所の施設で展示いただきました。このような広がりにも期待したいですね。
山﨑
そうですよね、自社コンテンツとしてさまざまな場所へ展開できるといいですよね。そして、今の子どもたちが10年後、20年後に今回のようなメッセージを見て、「当たり前じゃない?」と思うような世の中になるといいなと思います。
大野
本当ですね。私がジェンダー論を学んでいたころから10年ほど経ちますが、10年で世の中の価値観はだいぶ変わった気がします。広告は、ステレオタイプの概念を変える推進力の一端を担うと思うので、今回の活動もこれから世に出ていく広告や施策に活かしていきたいと思っています。
舩越
チームでたくさんの意見やアイデアを交わしながら、このメッセージにたどり着きました。当社グループとして、LGBTQ+コミュニティを応援する姿勢を、この力強いメッセージとともに社会に示すことができたことを心から嬉しく思いますし、誇りに感じています。
メッセージを受け取ってくださった皆さんのアクションを通じて、LGBTQ+の方々がより生きやすい社会が一日も早く実現してほしいですね。


山﨑 博司(やまざき ひろし)
博報堂 クリエイティブ局 山﨑チーム クリエイティブディレクター・コピーライター
「言葉の力で、社会を動かす」をモットーに、コピーを軸にした統合キャンペーンや社会課題解決業務を手掛ける。受賞歴に、クリエイター・オブ・ザ・イヤー 、TCC賞、TCC最高新人賞、ACCグランプリなど。著書に「答えのない道徳の問題 どう解く?」1〜3巻、「ぶたすけのラッパ」など。

平野 琢也(ひらの たくや)
博報堂 クリエイティブ局 PRディレクター
2014年博報堂⼊社。ストラテジックプラニング職を経て、2017年より現職。
戦略構築から社会潮流を起点としたPR・クリエイティブまで、社会との良い関係を築くための手法を自由に構想・実装し、クライアントと共にブランドの課題に立ち向かう。

大野 眞子(おおの まこ)
博報堂 クリエイティブ局 コピーライター
国際基督教大学卒業後、2018年博報堂入社。TBWA HAKUHODOを経て、博報堂クリエイティブ局に所属。言葉を起点にグラフィック、CM、アクティベーションなどの広告制作だけでなく、商品、事業開発など幅広い業務にチャレンジしている。

梶川 裕太郎(かじかわ ゆうたろう)
博報堂 クリエイティブ局 デザイナー
2019年博報堂入社。TBWA HAKUHODOを経て、博報堂クリエイティブ局に所属。グラフィックデザインを起点に、広告の企画制作から、ブランディング、空間デザインまで幅広い領域のアートディレクションを担当。

舩越 啓(ふなこし ひろし)
博報堂DYホールディングス サステナビリティ推進室 室長補佐
博報堂にて、ストラテジックプラニング、データビジネス開発、経営企画などの業務経験を経て、2025年より博報堂DYグループのサステナビリティ推進に従事。DE&I・人権などのテーマを中心に、サステナビリティ経営の実現にむけた取り組みを推進している。