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その他 コラム

DESIGN QUEST ~デザインを探す旅~
プロローグ-デザイナーは魔法使い? 現代のデザインを再定義する旅へ出よう

公開日:
2025/09/26

「デザイン」という言葉は今、ビジネスシーンや日常においてもよく聞かれるようになりました。一方で、言葉が表面的に扱われ、本質があいまいになる局面があるのも事実です。HAKUHODO DESIGNとquantumのインハウスデザインスタジオMEDUMが共同でお届けする本連載では、「デザイン」を拡張するさまざまなキーパーソンを訪ね、対話を通してデザインの本質やデザイナーの輪郭を探っていきます。
第1回は、企画のリーダーを務めるHAKUHODO DESIGNの柿﨑裕生とMEDUMの門田(もんでん)慎太郎の二人が、デザインの「ドメイン」や、デザイナーの姿勢について語り合いました。ぜひ、デザインをめぐる旅のプロローグにお付き合いください。

(写真左から)
株式会社HAKUHODO DESIGN 執行役員 チーフアートディレクター 柿﨑裕生
株式会社quantum Chief Design Officer/Head of MEDUM 門田慎太郎

デザインの"プロセス共有"が大事な時代へ

柿﨑
僕はグラフィックデザインから、門田さんはプロダクトデザインからこの領域に入ってきましたが、最近は美術大学などでデザインを専門に勉強をしていない人も、デザインという言葉を使い始めています。僕らが美大にいたころと比べて、デザインの概念がずいぶん変わってきましたよね。

門田
それは強く感じます。当時から徐々に「デザイン思考」といった言葉が広がり、ビジネスシーンで使われるようになりました。デザイナーの考え方や進め方をビジネスにも生かそうという、僕らが大学で学んだ技術が違う文脈に発展していったことが大きいと思います。

柿﨑
直近で動画クリエイターなどが新人類と言われたように、当時はアートディレクターが新人類として扱われていましたからね。そうした人の活躍がビジネスの目に留まり、取り入れる流れが出てきました。
そこから20年くらいの時を経て、いよいよデザインという概念が社会に浸透した状況が今かな、と。

門田
そうですね。大きく2方向の流れがあるのかなと思っていて、ひとつはデザイン領域が「非・デザイン領域」に拡大していったこと。もうひとつは、僕らデザイナーにそもそも求められていた業務範囲そのものが広がっていることです。機能的で美しいアウトプットをつくるだけでなく、もっと課題の上流から参加してコンセプトを一緒に考えるような役割ですね。「Co-デザイン」「共創型のデザイン」という言葉も聞かれるようになりました。
昔のようにデザイン領域だけで完結して制作するのではなく、ステークホルダーを巻き込みながらつくっていくプロセスが求められているように感じます。デザインが民主化している、というか。

柿﨑
デザイナーが、アーティストのように成果物のみで評価されていた時代とは違って、ビジネスサイドと一緒にプロトタイピングをして、検証して修正して、という試行錯誤を共有するプロセスが価値を持つようになっている気がします。その変化のスピードが、ますます速くなっている。
同時に、世代を超えた共創も重要だと感じています。先日も若いスタッフと話をしていたら、けっこう衝撃的にピンとこない価値観があって、自分が「わからない」前提で仕事に向き合わないといけないと思い知らされました。

門田
同感です。僕らが若手だったころと比べて、情報や価値軸が多くなっていますよね。

柿﨑
たとえばビジネスデザイナーという職名が、プロデューサー的な意味合いで使われていたりします。デザインの概念が広がる現代で、僕らのような従来のデザイン畑出身のデザイナーは何を取り入れていくべきなのか、と考えさせられます。

瞬間で理解できる"魔法"をかける

門田
領域が拡大している分、デザインという言葉の定義がぼやけてきている気もします。そのあたりは今回の企画の発端にもなっていますが、デザイナーとは名乗っていないけれど、僕らから見て「デザイン」をしている方々と対話する中で、現代のデザインの定義を探りたいですね。その定義の輪っかと、自分のデザインの輪っかがどう重なるのかも、興味があります。

柿﨑
そうですね。そのとき、「ドメイン」という言葉がひとつのキーワードになるかなと思います。僕にはグラフィック、門田さんにはプロダクトというドメインがありますが、これからこの連載で会いに行く方々にも、それぞれのドメインがあるはずです。ドメインが異なる方々と話すことで、発見がありそうです。

門田
僕らとは違うドメインから、何をデザインするに至っているのか......。何らか共通点もあると思うのですが、柿﨑さんはどう思いますか?

柿﨑
ドメインが違っても「デザインをしている」と思えるとき、いちばんコアにあるのは、人を魅了することじゃないでしょうか。そして人を魅了するためには、何かしらの魔法をかける必要がある。デザインがどれだけ上流プロセスに入っていこうとも、最終的にどこかでドキッとする瞬間があったり、それによって説得力が生まれたり。そういう魔法をかけるのがデザインの核心なのかな、と現段階では思っています。
この連載は、さまざまなドメインや属性の「魔法使いを訪ねる旅」とも言えるかなと。逆に、ドメインがあいまいだと、魔法の効力が弱くなるんじゃないかという仮説があります。

門田
デザイナーは確かに、魔法使い的なところがありますね。今おっしゃった「ドキッとする」もそうですし、ハッとしたり、感動したりするのも魔法と言えそうです。
それって、あまりロジカルに言語化できないし、説明することが難しい部分もある。誰かの目の前に出した瞬間に、その人の心をつかむことができるのが、デザイナーかなと思います。もちろん、デザイナーがロジカルに考えていないということではありませんし、仕事の中ではクライアントに説明する必要はあります。

柿﨑
よく「クリエイティブジャンプ」と表されますが、ロジカルに突き詰めつつ、どこかでロジックを超えるジャンプが必要なんだと思います。それがあって初めて、瞬間でピンとくるものになる。目の前に出されて、1回考えて咀嚼しなければならないものだと、やっぱり気持ちよくないですよね。
同時に、裏側にどれだけ苦労したプロセスがあっても、受け取る側にはそんなの関係ない。当然、ロジックや機能面はすごく重要ですし、デザインの目的もその都度あるわけですが、その中でどう魔法をかけるかというのが、デザイナーの大事な勘所なのかもしれません。

AIの活用と、手を動かさなくなる弊害

門田
デザインの拡張を話す上では、AIも欠かせないテーマですね。

柿﨑
話題にならない日はないですよね。ああいうものが生まれると、デザインの民主化も進むなと感じます。AIはあくまでツールですが、実際にグラフィック系ではかなりできることが増えているので、単純に楽しくて触ることも多いです。
門田さんは、仕事上でAIを使いますか?

門田
僕の専門のプロダクトデザインだと、途中の2次元までは、壁打ちなどには使えます。ただ、そこから3次元のリアルなプロダクトにする部分は、まだAIだけでは完結しないですね。PCや図面上ではなく、実世界に現してから検証していく段階が大事になるので。

柿﨑
なるほど、プロダクトはそうですよね。以前、ものの「重さ」についての話を門田さんから聞いたときに、すごく腑に落ちたのを覚えています。

門田
プロダクトには質量がありますから。たとえば重い扉だと高級感を感じたり、逆に軽いとカジュアルな印象を受けたりと、受け手の印象を調整する要素に使うこともある。そういう質量がある世界で、どうやって魔法をかけ続けられるかを考えています。
柿﨑さんは、広告やグラフィックの領域で、AIの介在をどう見ていますか?

柿﨑
おそらく、グラフィックデザイナーの個性やクセは、すぐに統計化してAIが再現できるようになると思うんです。逆に今のところ難しいのは、その広告や表現を「いつ、どのようなタイミングで世に出すか」を図ることじゃないかな、と。世の中と最適なコミュニケーションを取るのは、AIだけではまだ無理だと思います。

門田
そういう実社会の文脈を読むのも、デザイナーの役割のひとつですね。

柿﨑
懸念としては、AIで画像生成などを効率化することで、自分で手を動かしていたら気づけた細かい「発見」をスルーしてしまう可能性があることです。さっきクリエイティブジャンプの話をしましたが、手探りでトライ&エラーする中で葛藤があり、発見があるからジャンプできるような気がします。
AIのメリットは大きいですが、新しいビジネスやデザインから手仕事が抜けることの意味を自覚しない人が増えそうです。そこが、AIが広がる上でのいちばんもったいない部分かもしれない。

門田
そうですね。特にグラフィックがドメインの柿﨑さんだから、そう感じられるのかも。

柿﨑
画像系は、簡単にやろうと思えばほぼAIでできてしまいますから。だから、質量のあるプロダクトや、味わう料理、香りを楽しむ香水など、五感やフィジカルがかかわるドメインの方と話すと気づきが多そうです。

皆の足並みをそろえるデザインの力

門田
「手を動かす」といえば、デザイナーって良い意味で雑さというか、遊びがあると思っていて。プロダクトの世界でいうと、もちろん着地を見据えて仕様を設計してバックキャスティングでつくる側面もありますが、逆に「つくってみましょうよ」みたいな姿勢でプロトタイプを重ねながら方向性を探る、ブリコラージュ的なプロセスもあります。特に僕らquantumでは企業と新規事業開発をしているので、行き先がわからないことも多い。
そういう能力は認識されづらいですが、デザイナーの大事な姿勢のひとつだなと思うんです。

柿﨑
そうそう、単純に「つくってみたいから形にしてみる」というピュアな姿勢に動かされることがありますよね。僕らの感情も生ものだから、手を動かしながら変わっていく。

門田
そういう揺らぎは、人間らしいとも言えますね。
柿﨑さんにひとつお聞きしたかったんですが、僕は広告業界に後から入ってきたので「クリエイター」という言葉にあまりなじみがないんです。漠然と、クリエイターとデザイナーはかなりの範囲で重なるのかなと思う反面、線引きもあるんじゃないかと感じています。
もともと広告業界にいらっしゃる立場だと、どう思われますか?

柿﨑
そうですね...、たとえば、僕はよく音楽ライブを観に行くのですが、そこでいつもうらやましいなと思っています。ミュージシャンはデザインよりももっと速いスピードで、その場の空気を変えることができる。魔法の即効性が、デザインよりも速いと感じるんです。
でも、彼らはアーティストやクリエイターとは言われても、デザイナーという感じはしない。その点で、やはりビジュアライズされるもの、可視化されるものを生み出すのがデザイナーのひとつの線引きなのかなと思います。
もうひとつ可視化でいうと、それがプロトタイプであっても、皆の目の前に提示することで足並みがそろったり、プロジェクトが前進したりする。これも魔法みたいだなと思うし、可視化する能力がデザイン力のいち要素だったりするんだろうと感じています。

門田
目に見える形にするというのは、納得感があります。
話を聞いて思ったのは、問題提起型のデザインをする方もいらっしゃいますが、基本的には課題に対してソリューションを考えるのがデザイナー、そうではない部分も内包してものごとをつくるのがクリエイターなのかな、と。もう少し自由に楽しい視点を生み出したりする、アーティストに近いのかも。

柿﨑
たしかに、僕自身の仕事を振り返っても、何らかの課題を解決する目的で動いてきた実感はあります。そこは大きい違いだと思いますね。

門田
そういった部分も、これからの対話で見えてきそうです。今後の「魔法使いを訪ねる旅」が楽しみですね。

Photo by 末長 真

柿﨑 裕生
HAKUHODO DESIGN 執行役員 チーフアートディレクター

グラフィック、CI、プロダクト、商品開発、アパレルブランドやレストランの企画実装、メタバースなどの広い分野をアートディレクションによってリードし、ブランドに人格と意思を与える仕事を得意としている。東京ADC賞、ACC グランプリ、D&AD、カンヌ国際広告祭、ADFEST、SPIKES ASIA、グッドデザイン賞、日本パッケージデザイン大賞、日経広告賞 大賞、毎日広告デザイン賞 最高賞、朝日広告賞、読売広告大賞、電通賞 ほか多数受賞。

門田 慎太郎
quantum Chief Design Officer/Head of MEDUM

国内デザインファーム及び外資系メーカーにて製品デザインを担当したのち、quantumに参画。インハウスデザインスタジオMEDUMを主宰し、プロダクト、グラフィック、UI/UXデザインなどの境域から幅広い分野の新規事業開発を牽引する。手掛けたプロダクトは、iF Design Gold、Cannes Lions Gold、Dezeen Awards Project of the Yearなど数多く受賞の他、Pinakothek der Moderne (独)のパーマネントコレクションに選定されるなど国内外から高い評価を集めている。D&AD Awards(英)2025 プロダクトデザイン審査員。

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