
クリエイティブの力で世の中に新しい視点をもたらし、社会課題の解決に挑む博報堂の若手メンバーにフィーチャーする連載企画。今回は、生理用品ブランド「ソフィ」のTikTokアカウント「ソフィ さらけだ荘」をご紹介します。生理の知識を得るだけでなく、悩みを気軽に共有できるコミュニティとなることをめざして企画された本プロジェクトは、「TikTok for Business Japan Awards 2024のBest Activation部門賞」を受賞しました。担当する冨田佳菜子と横山由季に、クライアントの思いとともに歩んだ制作プロセスについてききました。
ソフィ さらけだ荘とは
ユニ・チャームの生理用品ブランド「ソフィ」が2023年4月に開設したTikTokアカウント。若年層が生理に関する正しい知識を得ること、お互いをより理解し合えることを目的に、「生理の悩みを一人で抱え込まず解決できる!」ことに貢献するコンテンツを定期配信する。

商品をプロモーションするだけでなく、生理をポジティブに受け止められる活動を
-お二人は2017年の同期入社なんですよね?
冨田:はい。初年度から配属が一緒で、プライベートでも旅行に行くくらい仲良し。でも、本格的に仕事をするのは今回が初めてなんです。もともと私がユニ・チャームさんの仕事を担当していて、今回のプロジェクトから横山さんに声をかけました。

-「さらけだ荘」がどのような経緯で生まれたプロジェクトなのか教えてください。
冨田:ユニ・チャームさんは生理に対する価値観を変化させるための活動をずっとされてきていて、たとえば2019年には「#NoBagForMeプロジェクト」を発足するなど、生理について気がねなく話せる社会をめざしてきました。そんななかクライアントが危惧していたことが「日本の女の子たちの自己効力感が低い」ということ。その要因のひとつに生理の存在があると考えていました。ただ生理用品をプロモーションするだけでなく、もっとポジティブに受け止められるような活動をしようというなかで生まれたのが「さらけだ荘」です。

横山:今回は若年層に向けたタッチポイントをつくりたいという意向があったんですよね。いまの若年層は自分で生理用品を選ぶ機会が少なく、お母さんが買ったナプキンをそのまま使っているようなケースが多いそうなんです。自己効力感というマインドの部分もありますが、自分で自分に合った生理用品を選べるようになってほしいという思いも込めて「さらけだ荘」を企画しました。
一番のポイントはコミュニティづくり。生理についてオープンに話せる場所をつくりたかった
-コンテンツを企画するうえで大切にしたポイントは何ですか?
冨田:Z世代をターゲットにした企画だったので、TikTokで発信しようということになりましたが、すでに生理に関するコンテンツはたくさんある状態。まずはどう差別化するかから考えました。
横山:生理にまつわるHOW TOを学校の授業のように一方的に伝えるコンテンツではなく、ユーザー同士が交流するようなコミュニティをつくりたいと思ったんです。そのためには、ターゲットに近いキャラクターの会話を見せていくのがいいのではと考えました。
企画がはじまった当初はZ世代をターゲットにしていたので、大学1年生の「なのか」と社会人1年目の「つきこ」が登場人物。大学生と社会人はライフイベントが違うので、両方を語れるキャラクターがほしかったんです。2年目からは初経を迎える年齢もターゲットに入れたいということで中学1年生の「ほしこ」が登場しました。

冨田:Z世代はルームシェアをする人が多かったり、TikTokの文脈でも同居人との生活をあげるものが支持されていたんですよね。そんな流行りも取り入れながら、隣人同士の何気ない会話を聞く、という設定で考えたのが「さらけだ荘」です。
-コミュニティをつくるというのが一番のポイントだったのでしょうか?
冨田:そうですね。若い世代はとくに、自分の性について人と話せず、一人で抱え込んでしまうという仮説があったので、オープンに話せる場所をつくりたいというのが一番でした。生理についてタブー視されることがいやだったんです。

横山:日本はとくに、自分の体のことを身近な人に話すカルチャーがなさすぎますよね。冨田さんとはすごく仲がいいのに、この仕事をするようになってはじめて自分の生理の話をするようになりました。でも、パートナーや周りの人に自分の体のことを知ってもらうのってすごく大事だし、その方が生きやすい。みんなが何でも言えるような世の中にしたいというのは、私自身の叶えたい世界でもあります。
コミュニティが育つことで見つかる新たなインサイトも。生活者視点の強みが活かせる場所
-実際の反響など、コミュニティが醸成されている実感はありますか?
横山:これまで数百本の動画をつくっていますが、どの動画を見てもコメントでユーザー同士のやり取りが生まれているんです。たとえば、「3カ月くらい生理がきていない」という投稿に「はじめは安定しない人もいるから、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」とコメントが返ってきていたり。コミュニティとして育っている実感がありますね。
冨田:動画の最後に「みんなはどう思う?みんなの意見も聞かせてね」といったセリフを入れるなど、コミュニケーションを促す構成は心がけていますが、ユーザー同士で交流してくれているのはうれしいですよね。

横山:いまはまだ、身の回りの人には話せないけどTikTok上の知らない人なら話しやすいという状態だと思うので、距離感としてもちょうどよかったのかもしれません。コメントを読むと、人それぞれ不安があって、自分だけの悩みじゃないんだという気づきが本当にたくさんあります。リアルなコメント欄の質問から、新しい動画をつくることもしていますし、さらにそこに集まったコメントから新たなインサイトを見つけることもできる。クライアントの次の施策にもつなげていきたいと思っています。

-TikTok上でコミュニティが生まれるよさもありながら、今後実生活の場でもっと「さらけだ」せるようになるにはどうすればいいと思いますか?
冨田:女の子だけでなく、男の子にも生理について知ってもらえるよう展開していくことも大事だなと考えています。いま博報堂側には女性メンバーしかいないのですが、男性も加入してもらってリアルな生活者としての男性の意見を取り入れていきたい。あとは親子で会話できるツールを用意したり、いろいろな関係性のなかでオープンに話せるきっかけを提供したいと思っています。
横山:友だちの好きな食べものを知っているように、友だちの生理の重さや体の変化について知っているという世界をめざしたいです。自分の趣味の話をするような感じで生理について話せるようになるのが理想です。
冨田:そういう土壌をつくるためにも、もっと小さいお子さんに向けて絵本をつくったり、教育の面でも貢献できたらうれしいですね。キャラクターがあるのはひとつの強みだと思っているので。
-キャラクターづくりなどクリエイティブな側面で博報堂のスキルが生かされていると思いますが、ほかに広告会社としてバリューを出せている点はどこだと考えますか?
横山:「さらけだ荘」については、直接的に商品を売ることではなく、共感を得られるものにしたいというのがクライアントの意向。そういう意味で生活者視点という私たちの強みが発揮できていると思います。女の子たちの自己効力感をあげたい、なんでも話せるコミュニティをつくりたいという共通の思いがあるからこそできていることなので、クライアントと二人三脚で取り組めている現状はとてもありがたいですね。
世の中のためにも、目の前の人のためにも。会社のためにも。ソーシャルプロジェクトには二重のよろこびがある
-さいごに、今後取り組んでいきたいことなどあれば教えてください。
横山:わたしは以前、自身が企画した「人にやさしくなるゲーム」のときもお話ししたのですが、人と人がオープンにつながる世界をつくりたいんだなってあらためて思うんです。自分のことを相手にもっと知ってもらいたいし、相手のことももっと知りたい。どんな商品やサービスのお仕事でも、めざしている世界に少しでも近づくような活動ができたら幸せだなと思います。広告会社にいるからこそ、いろいろなクライアントをつなげて共同のプロジェクトも提案できるかもしれない。そうやってどんどん広げていきたいですね。

冨田:私が社会課題のプロジェクトをやっていて感じるのが、クライアント社内のモチベーションがすごくあがるということ。自分の会社に対して誇りを持てるとか、自分のやっていることが世の中のためになっているという実感が働く人のやりがいに直結するのがとてもわかるんです。いまの時代、ソーシャルグッドってやらなきゃいけないもの、のように思われていますが、ちゃんと誠実に取り組んだプロジェクトには、世の中のためだけでなく、クライアント内のモチベーションもあがるという二重のよろこびがあるのでやりがいを感じています。この「さらけだ荘」もクライアントが大きな目的を持ってやっているからこれまで続いているし、今後も展開していく。先日、「さらけだ荘」を見ていた大学生がユニ・チャームの採用試験を受けにきてくれたという話を聞いて、すごくうれしかったよね。
横山:そうなんです。生理に対してもっとオープンになったらいいなという思いではじめた「さらけだ荘」ですが、その企業姿勢に共感してユニ・チャームさんを志望してくれた学生がいたそうで、こんなふうに人の人生に影響を与えられるんだなと想像以上の反響に驚きました。これからも、誰かをハッピーにするためアイデアを考えつづけたいですね。

冨田 佳菜子
博報堂 クリエイティブ局
CMプラナー
2017年博報堂入社。マス&デジタル広告において映像制作を軸にしながらも、ブランディング、体験設計など幅広く活動。自らデザインやアートディレクション、映像のディレクターも行う。YoungCannes SILVER / ADFEST SILVER / ONE SHOW GOLD / TikTok Business Award Best Activation部門賞ほか

横山 由季
TBWA HAKUHODO Disruption Lab
アクティベーションプラナー / コピーライター
言葉を中心に、幅広い手法で、時代に効くクリエイティブを展開。
少しでも、ハッピーでオープンな世界をつくれると嬉しいです。
ACC YOUNG COMPETITION Grand Prix / PR AWARD SILVER / TikTok Business Award Best Activation部門賞ほか