株式会社博報堂DYホールディングス(本社:東京都港区、代表取締役社長:西山泰央)は、同社の研究・開発部門マーケティング・テクノロジー・センター(以下MTC)に所属する猪谷誠一上席研究員による論文が、情報技術倫理の専門学術誌である「Ethics and Information Technology(以下E&IT)」に採択されましたことをお知らせいたします。
E&ITは、クラリベイト社によるJournal Citation Reportに採録されている倫理学分野の学術誌78誌中上位4位(2025年インパクトファクター 5.5)、ScopusのSJR※ランキングではコンピュータ科学応用分野1030誌中99位(2025年SJR 1.509)に位置する、インパクトの高い主要な学術誌です。
■ 研究の背景
MTCではマーケティング全般に関わる技術を幅広く研究・開発しており、大学・学術機関との連携も含め、様々な課題に取り組んでいます。日々進化するマーケティングテクノロジーやアドテクノロジー、人工知能を持続可能な形で事業に活用するためには、それらの技術がもたらす倫理的・法的・社会的な課題をいち早く発見し、事前に対策を講じておく必要があります。こうした課題意識に基づき、MTCでは生活者データを適正に活用するための法や倫理に関する研究を2013年から継続してまいりました。
ここ1年ほどの間に、ユーザーの生活に常に寄り添ってデータを取得し、そのデータに基づき自発的な提案を行うことで生活全体を便利にするAI(本論文では「予期的コンパニオンAI」 (ACAI)と呼称)が提案され始めています。同時に、生活者の情報検索行動の入口としてAIの存在感が著しく高まっている状況を受け、AI向けの「マーケティング」も注目を集めるようになりました。本論文は、ACAIとAI向けマーケティングが交差した際に、従来の理論では捉えきれない新たな倫理的課題が生じることを指摘するものです。
■ 論文の概要
タイトル: Marketing to Machines: The Fiduciary Illusion in Anticipatory Companion AI
掲載誌: Ethics and Information Technology (Springer Nature)
著者:猪谷 誠一(株式会社博報堂DYホールディングス/中央大学ELSIセンター/一般財団法人情報法制研究所)
DOI: 10.1007/s10676-026-09912-2
本論文では、ACAIがこれまでのレコメンデーションシステムやエージェントAIとどう違うのかを整理し、ACAIとAI向けマーケティングが交差したときに生じる新たな倫理的課題を「受託者としての錯覚」と名付けて分析を行いました。そしてACAIの特徴を踏まえた倫理や対策の構築を早急に検討すべきと訴えています。また、その対策の一例として、パーソナライズやマーケティングの影響を除いた「素の」ACAIを随時選べることをユーザーに保障する「バニラAIへの権利」を提案しています。
■ 今後の展望
生活者の自由や自律、多様性を尊重したマーケティング活動のためには、技術開発だけでなく、その技術がもたらす様々な課題を特定して対策を議論する必要があります。MTCは今後も博報堂DYグループの横断的なAI専門家集団HCAI Professionalsの活動として、マーケティングテクノロジーの適正な発展と社会実装に貢献するため、研究・開発に努めてまいります。
※SJR
SCImago Journal Rankの略。GoogleのPageRankアルゴリズムを用いて、引用を行ったジャーナルの重要度も考慮して評価するために作られたジャーナルの指標。